《MUMEI》 2「相変わらずね」 翌日、某所にある調査会社(Doll`s)の事務所 出勤時間を迎え出勤してきたライラとコウの眼に入って来たモノは 汚れに汚れた室内 どうやら此処に寝泊まりしたのだろう名残が部屋全体に現れていた 弁当カスにカップ麺の残骸が至る処に そのゴミの山に埋もれる様に未だ眠る部屋の主をライラは見つけ 深く溜息を付く 「コウ君、お願い出来る?」 仕方がない、といった様なライラの声に コウは小さく頷く事をし、そしてサキの耳元へ 唇を寄せると、一度大きく息を吸い込み その息を声と共に吐いて出した 鼓膜を震わせるほどのソレに、流石のサキも眼を覚まさざるを得ない 「……るせぇ。コウ、テメェなぁ!」 「お早う御座います。所長」 コウへの文句も途中にライラからの声 途端にその場に静けさが現れ 変な緊張の糸が張る 「……部屋の中が随分と悲惨な事になっている様ですが、ラング・ユーリの件、報告書にまとめて下さいました?」 「一応」 サキは徐に傍らのゴミの山を漁り始めると、その中から束ねられた書類を取り上げて ソレをライラへと手渡した ぞんざいなその扱いに ライラはため息をつきながらも内容を確認するため一枚ずつめくっていく 読み終わると、書類を元の形へと整えた 「……依頼料の7割といった処ですね。所長にしては上出来だと思います」 「一応は褒められてんだろうな」 「ええ。コウ君から聞いた昨日の話ですと4割程度が限度かと思っていましたから」 「……散々な言い様だな」 「そうですか?聞けば昨日、ラングを目の前に堂々とケンカ売ったそうじゃないですか」 「別に好きで売ったんじゃねぇよ」 「いい訳は結構です。それよりその書類、ちゃんと警察の方に届けて下さいね」 「俺がか?」 「一人で行くのが嫌ならコウ君もお供に付けますけど?」 「いらね。ガキじゃねぇんだ。一人で行ってくるよ」 「そうですか。ではお願いします」 行ってらっしゃい、と半ば強制的に事務所から追い出されてしまい 仕方なく、サキは書類片手に警察へ 「よぉ、サキ。今回は豪く早かったな」 到着するなり目的の人物と遭遇 古くからの友人であるゴーリィ・バンクリートで サキは持ってきた書類を数回揺らして見せると、徐に彼へと投げて渡した 「7割だそうだ」 「何が?」 「その書類、お前のところが出してきた依頼料の7割しか出来てないらしい」 「……お前、相変わらず尻に敷かれてんな」 揶揄う様に笑うゴーリィに、サキは何を言って返す事もせず踵を返す 「また頼むな」 ゴーリィの声を背に戴き サキはやる気なさげに右の手を上げて返し、そのまま外へ 来た道をそのまま家路に帰りながら その途中 薄暗く細い路地から感じる視線に気づきサキは脚を止めた 見れば其処には一人の少女が立っていて どうしてか泣くばかりの少女の手には 手足がバラバラに千切れてしまっているウサギのぬいぐるみが 泣いている理由を理解したのか、サキは少女の前に片膝をつくと 人形に指先を触れさせる ぬいぐるみ程度のものならば術印無しで再生成する事は可能で 元の形に戻ったソレを少女へ 「おじさん、すごいね。手品、みたい」 直った人形を抱きしめ嬉しそうな笑い顔 サキは僅かに笑んで返してやり、そして少女の頭へと手を置いた 「手品、だったらよかったんだがな」 「どういう、事?」 意味が分からない、と小首を傾げる少女へ だがサキは何を返す事もせず唯苦笑ばかりを浮かべる 「……そんなに、良いモンじゃねぇんだよ。コイツは」 言い換えてみればこれは罪で ヒトの形を模した、人成らざるモノを造り出す禁忌 一体何を目的にそれをごく一部の人間のみに植え付けたのか 今になっては分かる筈もない 「……おじさん、お人形好き?」 少女からの、唐突な問い掛け サキは益々苦笑を浮かべてやりながら 自身の目線を少女に合わせてやるために膝を折る 問い掛けには返してやる事をせず、頭を撫でてやるだけだった 「……おじさん、恐いんだ」 僅かに笑みを含ませた声が聞こえ 唐突なソレに何の事だと訝しんで向ける 「恐いんでしょ?壊れて、なくなっちゃう事が」 感情の全く籠らなくなった声 大凡子供らしくないソレにサキは更に訝しんでしまう 「お前、何言って……」 前へ |次へ |
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