《MUMEI》
危険な迷路
お頭は穏やかな表情になると、夏希に言った。
「この小娘を助けたいなら、ゲームで勝つことね」
「ゲーム?」夏希がお頭を見すえる。
「迷路よ。迷路から見事抜け出ることができたら、二人とも無傷で返してあげる」
「あたしは無傷じゃない」静果が睨む。
「子どもね。無傷ってそういう意味じゃないわよ」
意味がわかったので、静果は赤面して俯いた。
「迷路から出てきたら、本当に解放してくれるのか?」
「強気ね、あんた。もちろん約束は守るわよ」
「罠よ夏希。きっと絶対出れない迷路なのよ!」
「お黙り」
「卑劣なことはやめなさいよ」
睨む静果に、お頭は冷ややかに言った。
「もう一度コングと戦いたい?」
「だれが」
本当に呼ばれたら困るので、静果は黙るしかなかった。
お頭は夏希に説明する。
「あそこの入口から入って、あれが出口よ」
夏希はお頭が指差す場所を目で確認した。
「ルールは簡単。入るとわかると思うけど、道が2つに分かれるときは、それぞれに〇と×の幕がある。幕は思いきり飛び込んで破ること。〇ならやわらかいマット。×なら罰ゲームよ」
「つまり、×が〇かもしれないし、その逆もあると」
「そう。1を聞けば10をわかる人は好きよ」
誉められても嬉しくない。
「降参は2回までOK。3回目の降参でアウト」
「降参て?」夏希はやや不安になってきた。
「3回目の降参を奪った男は、あなたを好きにできる。スリリングなゲームでしょ?」
怪しい笑みを浮かべるお頭。静果は夏希を見た。
「迷路なんか入っちゃダメだよ!」
「聞いて静果。一か八かの賭けよ。二人でこの人数と戦って勝てる可能性のほうが低いわ」
夏希に言われて、静果は海賊たちを見た。淫らな笑みで夏希と静果の体を見ている。
静果は唇を噛んだ。夏希がお頭に言う。
「条件がある」
「一応聞こうか」
「あたしが帰って来るまで、この子には手を出さないこと」
お頭は一瞬考えたが、笑顔がこぼれた。
「いいわ。まあ、この小娘がいい子にしてればね」
「小娘小娘言うな!」
「はあ?」
お頭が冷酷な顔で歩み寄る。静果は焦った。
「今何か言った?」
「別に」
「あっはっはっは。あなたはいつもそうよ。最初は強気に出るけど、危ないと思ったらすぐに女の子になってかわいく哀願しちゃうんでしょ?」
「だれがそんなこと!」
目を剥いてムッとする静果だが、お頭はすかさず言った。
「じゃあ、今哀願させてあげようか?」
静果は反論しなかった。悔しいが、もっと悔しい目に遭わされたら意味がない。
「静果。すぐに戻ってくるから、大人しくしてて」
「わかったわ」
「何時間も待てないわよ」お頭が笑う。
夏希は無言でお頭を見すえると、走って迷路の入口へ向かった。
迷路というよりも洞穴だ。すぐに最初の〇×が見えた。夏希は迷わず走る。
「〇か×か、〇だあ。もう、高校生クイズじゃないっつーの!」
飛び込んだ。幕を破る。向こう側はマットだった。
「助かった」
立ち上がると、再び走る。また幕が見えた。
「〇か×か、×だ!」
飛び込んで幕を破ったが、水。
「しまった…」
ドホーン!
水は深い。夏希はすぐに上がろうとしたが、水面から首だけ出した瞬間に両足を引っ張られた。
「うぐぐぐ…」
水中に引き込まれる。見ると、巨大タコがいるではないか。
「んんん!」
夏希はもがいた。しかし両手両足をぐるぐる巻きにされ、逆さまにされてしまった。

苦しい。夏希は泣き顔で激しく暴れた。
(降参?)
テレパシーか。タコが話しているのか。声が聞こえる。
(降参?)
夏希は、2回まで降参ができるというルールを思い出し、心の中で言ってみた。
(降参)
(降参?)
(降参、お願い早く上げて)
巨大タコは夏希を陸に上げてくれた。だが、すぐには立ち上がれない。
「俺の名前はオクトパエス。よろしく」
よろしくと言われても困る。

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