《MUMEI》

なんとなく気になり、俺は彼女たちが手にしたファッション雑誌を遠くから覗き込む。


表紙には、キツイ化粧をしたロングヘアーのオンナが、大写しになっていた。


シフォンが幾重にも重なった、ピンクモーヴのドレス。深く切り込んだVネックからは、華奢なデコルテ。直接的なストレートロングの髪の毛を、風になびかせたショット。

ダークブラウンのアイラインに縁取られたその印象的な双眸は、挑戦的な輝きを宿して、こちらを見つめていた。



その目つきが、初めて会ったときの稟子となんとなくだぶった気がした。





…………アイツが、トラックの正面に飛び出してきたとき、

ああいう派手な格好、してたもんな…。





そんなことを、ふと、おもい出した。


ギャルどもの話から察するに、どうやらその表紙の生意気そうなオンナが、『Lee』という人物らしい。





…………そういや、あの顔、なんか見たことあるかも。


テレビとかCMとか、街の看板とかで。





ギャルたちは大声で言う。


「マジやばいよね、『Lee』。キレイすぎ」


「ちょー人気だし。みんなマネしてるよね??」


「てか足、細ッ!?スレンダーっつーの??」


「あー、胸ならアタシの方があっかも!!」


「ヤベッ!!『Lee』に勝っちゃった!?」


ギャハハッ!!と大笑いしている。

それからギャルどもは思い思いの雑誌を手に取ると、床にしゃがみ込み読みはじめた。

彼女たちは真剣な顔をして、食い入るように雑誌を読みふける。

おかげで、急に店内が静かになった。





猫にマタタビ。

トンビに油揚げ。


………ギャルにファッション誌、ってか??





そう、ひとりごちた。





すっかりエロ本を買う気が失せた俺は、手にしていたTVガイドを棚に戻した。

ギャルどものうしろをすり抜けて、そのままレジへ向かった。







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