《MUMEI》
夢の中の夢
『嫌だァ!』

『…祐也?』

『あ、…… ?』

『大丈夫?』


夢を見た。


『怖かった… …』


それは、現実に起きた夢。


殴られ、犯された夢。


『ごめんね、祐也』


うなされる度に、抱き締めてくれた人は、もういない。


『申し訳ありませんでした』


俺に頭を下げた優しい人も、もういない。


『…大丈夫』

『じゃあ、朝食にしようか』

『うん』


(…思い出した)


俺がうなされた翌朝、いつもメニューは同じだった。


(あれは忍なりの優しさだったのか)


俺に向かってウインクするクマのホットケーキ


最近見たばかりのその存在は、目覚めた俺をほんの少しだけ元気にしてくれた。


(シャワー浴びて、着替えるか…)


まだ五月だというのに、俺は異常な程汗をかいていた。


悪夢の原因・弘也は、俺の前には実際に現れてはいない。


しかし、京都で俺を見つけた弘也は


今も、忍に隠れて俺を探していると


優秀な執事で弘也の上をいく忍が、教えてくれた。


(でも、一応気を付けた方がいいよな)


一度の油断で、俺は弘也に襲われたのだから。

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