《MUMEI》

「紫苑様が内で蹴毬を‥?」




「ええ──」




「白栩さんには特に何も言われていないけれど──またいつ臥してしまわれないとも限らないわよね‥」




「姫様は如何なされて‥?」




「ずっと草子を読んでらっしゃるわ──本当に書見がお好きみたいよ」




 と言ってから、菊宮は思う。




(以前はあんなに──自分から進んで草子を読まれるなんてあったかしら)




「どうかしたの?」




 蓮宮の声で、我に返る。




「私──姫様の所に戻らなきゃ」




「菊宮‥?」




(やはり何か──あるのかも‥)

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