《MUMEI》

この世界は人族と魔族という二つの種族によって二分されている。そのうち人族の街フェーゼ。山岳に囲まれた王都への唯一の玄関口故に、世界屈指の繁栄振りを誇る。男が訪れた街だ。男は相変わらずフードで顔を隠したままだが、街を包む喧騒が気に入ったのか、街に入った時からずっと笑顔だ。たまに見かける、無邪気に跳ね回る子どもを見てはさらににこやかになる辺り、男は子ども好きなのかもしれない。疲れを忘れ上機嫌で宿を探すのであった。
「っ!?」
「うおっ!?」
気を抜きすぎていたようだ。男は禿頭の柄の悪い大男とぶつかってしまった。男はすぐさま謝罪する。
「申し訳ない。注意が散漫だった」
若い、しかし大人びた青少年の声。力強く、頼もしく、そして自信に溢れている。それは大男にとっては『生意気』以外の何物でもなかった。
「ぁあ!? ただ謝ったぐれえで許してもらえるとでも思ってんのか!? 誠意を見せろや誠意をよぉ!! 大体だな、顔隠したまんまってのぁどういう了見だ!?」
言うや否や、大男はフードを無理矢理上げてしまった。そして露わになった男の顔を見て、誰もが息を飲んだ。左目の下に刻まれた紋様。長く尖った耳。それは、彼ら人族が『汚物』と呼び忌み嫌う、魔族の身体的特徴である。一瞬後にあちこちから罵声が飛んできた。
「失せろ汚物がっ!!」「何しに来たのよ!!」「私たちの息子を返して!!」「てめえらがいると世界が腐っちまうんだよ!!」
人族と魔族はほんの一年前まで戦争をしていた。互いの王が没し、後を継いだ新たな王たちがこれ以上の戦いを避け、友好条約を結んだことで戦争は終結となる。だがたった一年で関係を改善できる程、二種族間の確執も戦争の傷痕も浅くなかった。この酷い罵声も仕方のないことなのだ。それが分かっている男は、黙って言われるがままでいた。しかし何故か罵声は徐々に収まっていき、人の群れが男から離れていく。と同時に一際大きな魔力を男は感じ取った。魔力の方向を眺めていると、人々の間から一人の少女が姿を現した。繊細な銀細工のような美しい長髪。純度の高い宝石のような蒼い瞳。初雪のようなきめ細かい白い肌。誰の目から見ても美少女と呼べる彼女の顔は、憤怒と憎悪で染まりきっている。
「お父様とお母様の仇! 覚悟しなさい魔族っ!!」
少女の周囲の魔力が渦を巻きながら、翳した彼女の右手に集まり始めた。

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