《MUMEI》
合言葉
ピンポーン


(今日も時間ぴったりだな)


身支度を整えた俺は、カバンを持って玄関に向かった。


京都に花見に行った翌日から、俺は玄関のカギとチェーンを忘れずかけていた。


(今日は、誰かな?)


俺を迎えに来るのは、高山一族ではなく


志貴が選抜した俺のファンクラブのメンバーだった。


「合言葉は?」

「「マイブームはイエスタクマ」」


一人は元気よく


一人は心底嫌そうに、志貴が決めたファンクラブ会員だと証明する為の、合言葉を言った。


俺を迎えに来るのは、一人では付き合ってると誤解されるからと、必ず複数だった。


「おはよう、緑川・鏡月」

「おはよう、田中君」

「おはよう、ゆ、ゆゆうや」


今日の迎えは緑川と


『名前で呼べ。…俺も名前で呼ぶ』


そう言った、涼風改め鏡月だった。


「二人共、家こっちだったんだな」


俺が自転車通学だから、迎えに来る人間も自転車通学で、同じ方向の人間のはずだった。


が…


「私はそうだけど、部長は違いますよね」

「津田会長には黙ってろ」


緑川の話だと、鏡月は、逆方向の上に、この日既に一旦登校し、花壇の水くれをしてきたらしい。

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