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《MUMEI》 ｢木下は俺のものにならないことくらい知ってる。｣ バターナイフがペンのように友紀夫さんの指の間を廻り、一瞬目を離した隙を見計らって俺の瞳へ向かって切っ先は伸びてきた。 ｢っ……七生！｣ ｢…………人間は追い詰められると深層心理が暴かれてゆく、俺の場合は君。では君の求めるものとは？｣ バターナイフが瞳を反れて机で湾曲した。 安堵するあまり首が上手く据わらない。 ｢は……は……｣ 震えるあまりに上手く息が吸い込めない。 必死に呼吸を調えた。 まだ、自由な両手の実感も掴めない。 ｢――――――――木下は俺達側に付いちゃいけないからな？｣ ｢せんせい……？｣ 先生が居なくなる頃には部屋の明かりが付いて、辺りは白いテーブルクロスがくっきりと浮かんでいた。 前へ |次へ |
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