《MUMEI》
厳の気持ち
俺の部屋には簡単な調理器具とオーブンレンジはあったが


俺が石川にリクエストしたマドレーヌを作るのに必要な型が無かった。


『型と粉類持って来るから待ってて』


石川は一旦家に向かった。


『他の材料買ってきます』


松本は、アパートに一番近いスーパーに寄った。


「…荷物持ちしなくて良かったのか?」


俺は、俺と一緒に部屋に入った厳に質問した。


「…どっちの?」

「お前はどっちの荷物持ちがしたかった?」

「両方、同じ位手伝いたかった」

「そうか」

「うん」


厳は未だに迷っているようだ。


「残り、一年無いぞ」


俺が、厳の花嫁候補を見極めるまで、もう一年を切っていた。


「ちなみに、能力的には?」

「石川」


学力・身体能力・判断力は石川が上だ。


(でも…)


「センスの良さと、お前を想ってきた時間の長さは松本が上だ」

「そうか…」


松本のセンスの良さは、誰にでも通用する。


そのセンスと、一途に人を想える気持ちは、きっと厳に足りない部分だ。


「最近積極性も出てきたしな」

「…延長とか」

「それは果穂さんに頼め」


俺にはそんな権限は無かった。

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