《MUMEI》

「首、大丈夫でしたか?俺、加減出来なくて。」

そうだ、俺は先生の車に居た。
安西は乗ってなかった。


「安西……何時、捕まったっけ。」

車に乗って、気づいた時には先生に捕まっていた。
そこに安西が居た。


「いいえ、俺が自分の意志で乗ったんですよ。事故が起きたんです。俺は先輩の座席に潜り込み、首を絞めました。槙島が先輩に執着していることは知っていましたからね。簡単に唆せましたよ?」

本当に、安西なのか?
声と言葉が合致しない。


「どうした?あんざ……」


「ゆ、う、し」

両頬を掴まれた。


「ゆ、ゆうひ……」

口が上手く動かせない。


「そうそう。
先輩との先程までの会話はしかと聞いてましたよ。残念ながら、俺のこと、あまり気にしてくれてなかったですよね?
こんなに、尽くしてるのに俺を呼ばない。どうして、俺じゃないんですか?
こんなに想ってるのに、満たされない。
こんなに愛しても愛されない。
先輩の首を絞めながら手の中で俺しか見ない先輩に酔ってた。愛か殺意か、曖昧な狂気へ先輩を浸したくて……」

安西の眼球がぎょろぎょろと俺の隅々へ移動している。
目を合わせようとしない。
人には、関わって欲しくない領域がある。
これがそう?

安西の姿なのか。

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