《MUMEI》
理不尽な脅迫
.









…………もう、戻れない。




いいえ……。







戻りたくない、のか。







濁っていて、汚くて、


嘘と、見栄ばかりがつきまとう、


欝陶しい、世界には。




………そう。


昨日まで、このわたしが、


平然と身を置いていた、






あの、『日常』に−−−−。









◇◇◇◇◇◇










…………なにも、殴ることねーじゃん。





赤く腫れた頬を摩りながら、俺はあえて聞き取りにくい声で呟いた。


そんな俺に、稟子は助手席から冷ややかな視線を向ける。


「なに?なにか言った??」


そら恐ろしい抑揚だったので、俺はそっけなく、別に!!と答え、両手でハンドルを握りしめる。稟子は鼻を鳴らし、頬杖をついて窓の外を眺める。


「……確信犯でしょ?殴られて当然」





…………聞こえてたんかい。


つーか、『確信犯』ってなんだよ!?





「あれは事故だろ」


俺が静かに訂正すると、稟子はため息をつき、どうだか?と挑戦的に言ってきた。


「さっき、コンビニでエロ雑誌物色してたじゃん」





…………見てたんですか。





俺はハンドルを右にきりながら、仕方ないだろ、と呟く。


「俺だってオトコなんですから」


興味があって当然だ。

すると稟子は不意にこちらを見て、睨んだ。


「オトコのくせに、開き直らないでよ。みっともないわね」


そう吐き捨てると、稟子はふたたびプイッと顔を背けた。





………コイツッ!!





俺は必死に怒りをしずめた。


しばらく沈黙が流れる。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫