《MUMEI》

静まり返った車内には、ラジオからニュースが延々と流れていた。


《……人気アイドルグループの『シド』さんが、かねてから恋人と噂される、モデルの『Lee』さんの失踪を受けて、今朝早く、所属事務所を通し、コメントを発表……》





…………また、『リー』とかいうヤツの話か……。





ニュースは続く。





《………『Lee』さんの所属事務所の発表によれば、失踪の直前、『Lee』さんと何者かが言い争う姿を見かけたとの情報もあり、拉致・誘拐も視野に入れて、警視庁は慎重に捜査を進める方針とのことです……》





…………拉致??誘拐??





俺はため息をついた。





…………世の中、物騒だなぁ。





ひとりごちていると、


稟子が急に静かになったな、とおもった。


気になった俺は、稟子の顔を盗み見る。



稟子は、青ざめた顔をしていた。

あらぬ方を見て、カタカタと小刻みに身体を震わせ、俺のタオルケットに身体を包んでいる。


俺は眉をひそめた。


「どうした??」


俺の声に、彼女はハッと我に返ったようで、呆然と俺の顔を見つめる。


明らかに、稟子の様子が変だった。





…………なんだ??


もしかして、具合、悪い??





俺は急に不安になった。


「おい…マジで、おまえ」


言いかけたそのとき。


稟子がぽつんと言った。





「着替え」





…………はい??





『着替え』って??





首を傾げる俺にイラだったのか、稟子は大声でわめき立てた。


「着替え用意してよ!!お茶かぶって寒いつーのッ!!」





………はぁッ!?





「用意って言ったって…」


俺はトラックの中にあるものをおもい浮かべた。

オンナ物の着替えなんかない。自分の替えだってないっていうのに。

無茶言うなよ、と稟子をたしなめたが、ムダだった。

彼女は俺の方に身を乗り出して言う。


「アンタのせいでしょッ!!どっか、店で適当に買いなさいよ!!」


「そんな時間ねーって…」


俺が呆れてぼやくと、稟子はじっと睨みつけた。


「じゃ、このまま警察行ってよ」





…………は??


警察??





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