《MUMEI》 「ずーっと、ずーっと、先輩を試していたんです。」 「試していた?」 「………………俺を見ているか。 写真を送りました。ウチ先輩との逢い引き写真を。」 「うそ、」 沈黙後の優しい微笑みに、気が緩む。 「……頼ってくれなかった。」 再び、突き落とされる。 「だ、だって、 安西はいつも優しくて兄弟思いで……」 「槙島は真面目で授業も面白い模範教師でしたよ。 でも、悲鳴マニアの変態だ。先輩は気付かないだけです。」 遮りに見えない威圧を感じる。 「俺が、気づけなかった?」 「はい。 先輩は与えられるものを信じ過ぎるあまり、俺を理解してくれなかった。裏切らないところがらしいというか……。」 押さえ付ける俺の手首を安西は何度となく掻いている。 手錠の擦れた場所だ。 「それでも、安西の優しさは俺は安西の持って生まれたものだって思う。」 だって、あの安西が嘘だとは思えない。 「先輩の、その疑わないところが好きです。」 やっと安西に戻ってきた。 「安西を気持ち少しでも理解したくて……迷惑?」 「俺ね、先輩に理解して貰おうなんて考えてないんです。 ただ、優しくすればみんな誉めてくれるでしょう?そうすれば人間関係に差し障り無くて楽なんです。 愛した分だけ傷付く。 夏休みに先輩がウチ先輩とそういう関係だって気付いてから、先輩のことばかり考えてました……俺は媚びる人種だからウチ先輩みたいなタイプ嫌いなんです。 先輩を奪って、俺は初めて俺で居られる気がした。……先刻、先輩が俺を呼ばなかった時点で決まってたんだ。俺は俺の賭けに負けてしまったんだ。」 ひやり、膚に冷たい塊が当たる。 前へ |次へ |
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