《MUMEI》

それから約二週間ばかり経過した頃。


「君、日本人だよね?」


「え!?」


突然肩に手を置かれた。


ここはブラジル。


余りに流暢な日本語。


それと聞き慣れた声色に、急いで振り返った。


そしてまた更に唖然とした。


「おいおい、お化けでも見るような表情するなよ。」


苦笑し、俺を見下ろしているのは、確かにその人。


俺がサッカーを始めるきっかけとなった、その人。


“倉木逞(クラキ タクマ)”


俺が一番尊敬し、憧れている人。


「お、俺!

倉木さんの大ファンなんです!」


興奮して、思わず詰め寄ってしまった。


だが倉木さんはそんなことには気にも止めず、笑顔で俺の頭を掻き回した。


「おっ!?

俺のこと知ってるのか?」


「あったりまえじゃないっすか!

俺の憧れの人っすもん!」


頬を膨らませて抗議すると、倉木さんは愉快そうに高らかに笑った。

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