《MUMEI》

どうして警察が出て来るのだろう。


「なんで??」


わけがわからず俺が尋ねると、稟子はニヤリと笑う。


「わたしがこーんな恥ずかしい格好で、お巡りさんに『たすけて〜』って泣き叫んだら、どうなるとおもう??」


「どうなるって……」


俺は、稟子の姿を見た。



下着姿にオトコ物のTシャツを一枚。そして、上半身はビショ濡れ。



明らかに、フツーじゃない格好だ。



そして、そんなオンナをトラックに乗せていた俺は………。



先程のラジオの『拉致・誘拐』という言葉がよみがえる。




…………たとえ真実が、どうであっても。




稟子がこの状態で警官に泣きつき、

あることないことぶち噛ませば、



間違いなく俺は、



『変質者』の烙印を押されることになるだろう。





………一通り想像して、ゾッとした。





「やめろ!!誤解されるだろーが!?」


真っ青になった俺に、稟子は勝ち誇ったような顔をして言った。


「ムショにお世話になりたくなかったら、わたしの言うことをきくのね!」


稟子の感じの悪い高笑いが耳に残った。





…………コイツ、



悪魔だ………………。











理不尽な脅迫に怯えた俺は、道沿いにあったファッションセンターに立ち寄った。

稟子によれば、その店は巷で『ファストファッション』と呼ばれていて、この不況の世の中、多くのひとに重宝されているブランドらしい。

駐車場にトラックを停めると、俺は稟子の顔を見た。


「じゃ、行ってくるから」


おとなしく待ってろよ、と続けようとしたが、

稟子が眉をひそめ、寝ぼけてんの?と言った。


「わたしも行くわよ」





…………えっ!?





驚いている俺をよそに、稟子はため息をつきながら、腕を組んだ。


「あんたってセンス無さそうだから、ぜんぶ任せたら、どんな服買ってくるかわかんないし。試着だってしないとじゃん??」


ごく当たり前のように言われた。





…………まぁ、


俺のセンス云々は、この際、聞かなかったことにしよう。


あと、服を買うときは試着するのが一般的だというのも、わかるさ。



けど………。



…………けどさぁッ!?





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