《MUMEI》 憂鬱な買い物俺は稟子の格好を眺める。 もう説明する必要はないだろうが、 下着の上にTシャツという、あられもない姿。 俺は半眼で稟子の顔を睨む。 「……そのカッコで??」 稟子は肩をすくめて見せた。 「下はタオルケット巻いていくから、平気」 ………そういう問題じゃねーし。 軽くめまいがした。 コイツは、『常識』という言葉を知らないのだろうか。 「あのさ、ホラ、靴もないんだし…やっぱりここで待って……」 言い聞かせるように呟いてみたのだが、 稟子は話を最後まで聞かずに、 助手席側のドアを開くと、 裸足のまま、ヒラリと地面に降り立った。腰にパレオのように巻き付けたタオルケットの裾が、フワリと揺れた。 まるで、野良猫のような、身のこなしだ。 外に出た稟子は大きくひとつ、伸びをしたあと、Tシャツの襟にかけていたレイバンのサングラスを装着し、俺を振り返った。 淡いブルーのレンズ越しに、稟子の瞳が輝いていた。 彼女はいっこうに降りようとしない俺に、ちょっとー!と呼びかける。 「ぼーっとしてないで、早く入るわよ。時間、ないんでしょ?」 …………だれのせいだよッ!! 心の中で毒づき、トラックを降りた。 俺が歩き出したのを確認してから、稟子は身を翻し、店の方へ颯爽と歩きはじめた。 …………だから、嫌だったのだ。 俺は俯いた。 その隣で稟子は洋服を真剣に物色している。目の前にある陳列棚から2本のデニムを取り出して、見比べている。 「……デニムが4000円で買えるなんて、すごいね〜」 なにやら楽しそうだ。 俺は顔を少しだけ持ち上げ、周りを見た。 早い時間だから店内は閑散としていて、客はほとんどいなかった。 だから、余計に浮いてしまったんだ。 店員や他の客たちが、俺たちにじろじろと視線を流してくる。ムリもない。 俺は稟子を見た。 生乾きのTシャツにタオルケットを腰に巻いて、しかも足元は裸足。そしてなぜかサングラスを身につけているという、みすぼらしく奇妙な格好。 どこから見ても、頭のおかしいヤツだ。 . 前へ |次へ |
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