《MUMEI》
悪魔と呼ばれた子
加奈子が今触れている手。
これは確かに男の手。

だがしかし、これは一体どういうことなのか?

まるで太陽を嫌うかの様な、血管まで透き通す青白い手。
骨張った指のその先には、ナイフの如く鋭く尖った爪が、加奈子に狂気の光りを反射している。


これではまるで…


「化け物…」

「え…?」

「今、そう思っただろ?」
「そんな、事…」

否定しようとするが、声が小さくなってしまう。
事実、男の言う通りそう思っていた。

「いいんだ、正直に言ってくれて。もう慣れてる…」
そう言って、笑顔を見せる男が痛々しくて、掛ける言葉が見つからない。


「悪魔の子…」
「あくまの…こ‥?」

加奈子が何も言わないでいると、男が続けた。


「そう、“悪魔の子”。
俺は小さい頃、実の親からそう呼ばれていた。」

「そんな…っ!?」

「酷いと思うか?」

「そりゃ‥だって自分の子供にそんな…」

「普通言わないよな。」

「…うん。」

加奈子は頷きながら、思わず男の手を見てしまった。

「そう、でも見ての通り俺は普通じゃない。」

「そんなつもりじゃ…!」
加奈子は慌てて否定しようとしたが、何せ感情が顔にでてしまうタイプだ。
嘘を付いたところで、それは何の意味も成さない事は分かっていた。

「ゴメン…。」

だから謝った。


「謝る事ないさ、真実だから。」



「今…そのご両親とは?」
聞いてもいいのか迷ったが、他に何を言えばいいのか分からなかった。



「死んだよ。」


え…。死んだ?


「ご、ごめんっ!!私また余計な事を…」

気を使ったつもりが、どんどん空回りしていく自分を恨めしく思う加奈子。

そんな加奈子を気にも止めないといった感じで、男はまた瞼を閉じた。


何かを思い出しているかの様にも見える。



それからゆっくりと目を開けると、一息ついて話し出した。



「…あれは15年前……。」

一語一句確かめるように、男はゆっくり、ゆっくりと話し出した。

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