《MUMEI》

「俺と居るのもいいけど一度は帰省しなよ。」


「あら、珍しい。」

光の我が儘が発令しないだなんて。


「おばあちゃんに線香あげに行こうよ。」

ジイさんの後を追うようにして、夫婦揃って亡くなった。


「……そうだな、確かに……いや、でも止めとく。」


「うわ、酷い孫だ!」


「帰ったら引越し手伝わされるし。」

幹祐と睦美さんの新居は祖母さんの家になり、今はその準備やらで面倒なことになっている。


「俺は会いたいな。国雄のお母さんの煮物好き。」

睦美さん、あまり料理好きな人じゃないから……。


「あのな、母さんの味は俺の味なの。」


「作らないじゃん!」


「煮物はつい、作りすぎちゃうんだよ。」

不服そうな顔をするな。
光が最近肥えてきたから少量で効率よく栄養分が補給出来るものにしているのだ。
白米の進むおかずは出せない。


「国雄のおばあちゃん、好きだった。あんなふうに年取りたい。」

感傷的になっているようだ。


「そうだな。
光のお陰で祖母さんとも会えた。お前は俺の……希望だ。」


「抽象的だ。」


「俺、美的センスがいいから。」

だから、光を選んだ。


「俺もだ。」

視線を合わせてにやりと、笑みを交わす。

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