《MUMEI》 . 俺たちがトラックに乗ろうとしたとき、 近くに車を停めていた、若いカップルが、稟子の方を見て、驚いたような顔をしているのが見えた。 こちらをジロジロ見つめては、ふたりでなにか囁きあっている。 …………なんだ?? 不審におもい、さりげなくカップルの会話に耳を傾ける。 「……あの女ひと…似てるよね??」 「似てるっつーか、本人じゃないの??」 「え〜!?まさか、こんなところにいるわけないじゃん!!」 「わかんねーよ。だって、今、雲隠れしてるんだし…もしかしたら……」 俺は首をひねった。 ふたりが、一体なんの話をしているのか、見当もつかない。 俺は当の稟子の方を見た。 稟子はカップルの会話に気づいているのか、いないのか、顔色も変えず、さっさとトラックに乗り込んだ。 カップルはまだ会話をつづけている。 「帽子とサングラスで顔がよく見えなかった〜」 「いや。あれ、間違いなく本人だって」 「マスコミとかに連絡した方がいいのかな……」 …………マスコミ?? 俺は眉をひそめる。 一体、どういうことだ? 考えを巡らせていると、 突然、運転席のドアがひとりでに開いた。 おかげで肩にドアがぶつかる。 びっくりして振り向くと、開いたドアの向こう側に稟子がこちらに身を乗り出して、俺を睨みつけていた。 どうやら、稟子が、内側からドアを開けたらしい。 ぶつかった肩をさすりながら、なにすんだよ、と文句を言おうとした。でも、やめた。 …………なぜなら。 淡いブルーのレンズ越しに見える稟子の瞳に、 焦燥がうつっていることに、気づいたから。 わけもわからず戸惑っていると、稟子はイラだった様子でまくし立てる。 「はやく、車出して!!」 金切り声に、俺はハッとする。 慌てて車に飛び乗ると、すぐさまエンジンをかけてサービスエリアから立ち去った。 …………サービスエリアから離れても、 稟子の肩は、小刻みに震えつづけていた。 まるで、 なにかに怯えているように……。 . 前へ |次へ |
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