《MUMEI》 . 「それが、どうかしたの??」 よくわからず、俺は尋ねた。 稟子はゆっくり振り向き、眉をひそめる。 「………ホントにわからないの??」 今度は俺が眉をひそめた。 「わからないから聞いてんだろ?」 要領の掴めない会話にイラだちながら、言い返す。稟子は少し考えるようにして、言った。 「アンタって、テレビとか見ないひと??」 急に話が変わったので、俺は首を捻った。 「見ないわけじゃないけど、ほとんど車の中にいるから。どっちかっつーとラジオ派」 とりあえず正直に答えると、稟子はほうけた表情を浮かべて、破られた雑誌を掲げた。 「……じゃあ、なんでこんな週刊誌買ったの…??」 「それは………」 俺は返事に戸惑ったが、ここで正直に答えなければ、また稟子が怒りだすとおもい、意を決して呟いた。 「……袋とじを、見たかっただけ」 俺の返事に、稟子は変な顔をした。 「袋とじ……??」 呟きながら、週刊誌の表紙をもう一度、見遣る。 そして、例の見出しを見つけたようだった。 「……《秘密の花園》……??」 稟子は頼りない声で、ぽつんと読み上げ、次の瞬間、ブッ!!と吹き出した。 「なにこれ!!ヘンな見出し!?オトコってこーゆーの好きだよね!!」 先程の思い詰めた顔とは打って変わって、ケラケラと腹を抱えて笑い出した。 なんとなく、恥ずかしくなる。 「笑うな!!仕方ないだろッ!?興味あるんだから!!」 怒ってみせたが、稟子はまだ笑っている。 ひとしきり笑い転げたあと、稟子は涙を拭きながら、言った。 「良かったよ、乗り込んだトラックの運転手がアンタで」 俺は半眼で稟子を睨む。 「どーいう意味だよ」 稟子は、ふふっと含み笑いをした。 「ナチュラルなアホで安心したってこと。あー!!心配してソンしたぁ!!」 伸びやかな声でそう言い、彼女は明るく笑った。 俺は眉をひそめた。 「バカにしてんの??」 稟子は首を振る。 「違う、違う。感謝してんの!」 そう言って俺の方を見、美しくほほ笑んだ。 「ありがとう」 その稟子の眩しい笑顔は、 彼女に会えなくなった今でも、 俺の脳裏に焼き付いて、 ずっと…………… ずっと、離れない−−−−−。 . 前へ |次へ |
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