《MUMEI》
危険な約束
ドエス魔人が危ない笑顔で迫る。
「待っては降参でしょう?」
「違うわ。待ってはタイムよ」
「タイム?」
嬉しそうな魔人。夏希は身じろぎした。水着姿で手足を拘束された状態は、やはり怖い。
「もしもあたしが降参したら、どうする気?」
「もちろん犯すよ」
「ちょっと待って、そんな恐ろしいことは言わないで」
夏希は本気で慌てていた。
「ねえ、友達を助けなければいけないの。助けたあとなら、闘ってもいいから」
「そんな口車に乗るほどバカではないよん」
夏希の両脇にドエス魔人の両手が伸びて来る。
「ちょっと待って、ちょっと待って」
「だーめ」
「なぜあなたのような強くて聡明な人が、海賊の手下になんかなってるの?」
「時間稼ぎは終わりい!」
ドエス魔人が再びくすぐりの刑。夏希は暴れた。
「やははははは、やめははは、あははははは…」
「降参?」
息ができない。
「待って、待って」
「もう待っては通用しないよん」
ダメだ。どうにもならない。
「わかった、降参、降参」
魔人は攻撃をやめると、笑顔で夏希に迫った。
「降参しちゃったね。てことは、いただいていいのかな?」
「待ってください魔人さん」
「さん付けなんかしたってダメだよん」
水着に手がかかる。夏希はもがきながら叫んだ。
「お願いです、話を聞いてください!」
「スーパーヒロインのくせに、敵に哀願しちゃうのう?」
「負けちゃったら潔く哀願するわ」
「かわゆい!」ドエス魔人は感動の面持ち。
「魔人さん。友達を助けてくれたら、あたしの体を好きにしていいです」
「お嬢、言ってることがおかしいよん」
「なぜです?」
「だって今好きにできるのに、何でそんな面倒くさいことしなきゃいけないのう?」
「今変なことしたら、舌を噛みます」
ドエス魔人は怯んだ。
「その友達って、かわいい?」
「あたしの5倍かわいいわ。セクシーだし」
「うーん」
魔人は目を閉じて考えた。
「その友達を助けたあとなら、好きにしても舌を噛まないってこと?」
「……ええ」夏希は赤い顔で呟く。
「武士に二言はない?」
「武士じゃないけど二言はないわ」
「うーん」
ドエス魔人はじっと考える。夏希は無言のまま待った。
魔人は顔を上げて夏希を見ると、また天井を仰いで叫んだ。
「交渉決裂!」
「何でよ!」
慌てて目を見開く夏希に、ドエス魔人は嫌らしい笑顔で迫る。
「この場しのぎの言。見破ったもんね」
「何が見破ったのよ。全然見破ってないじゃない!」
「僕を恨まないでね」
「恨むよう、やめなよう」
弱気な夏希によけいエキサイトするドエス魔人。弱いところを見せるのは逆効果だった。
良心のある人間ならいざ知らず、相手は色魔界のモンスターだ。
「ぐふふ。まずはいじめちゃおう」
いきなりくすぐりの刑。
「何で、あははは、やめて、やはははははは、やははは、やあああ、ははははは…降参、降参」
「限界だから降参してるのに攻撃をやめない。これぞドエス魔人の真骨頂!」
「やははは、やめて、やめて…」
「真骨頂、骨頂、コチョコチョコチョコチョ真骨頂、何たりして」
必殺脱力。力が入らない夏希に容赦ない攻め。夏希は涙を流し、口を開けて悶えた。
一方、静果は。
「遅い…。大丈夫かな夏希?」
心配する静果に、お頭は言った。
「あの娘は戻ってこないわよ」
「え、どういう意味?」
「奇跡でも起きない限り、クリアできない迷路なのよ」
「卑怯なことするわね」
睨む静果に、お頭は余裕の笑みを向けた。
「卑怯ついでに、あなたもゲームしない?」
「え?」静果は焦る。
「鬼ごっこよ」
「鬼ごっこ?」
顔をしかめる静果。お頭は海賊たちのほうを見た。
「いよいよ、おまえたちの出番だよ」
「オオオオオ!」
静果は額に汗を滲ませ、身構えた。
「捕まったら終わりよ女の子。どうする。私にひざまずく?」
静果は唇を噛んだ。

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