《MUMEI》
変なもの
保健室に運ばれた男子生徒は、ようやく落ち着きを取り戻した。
他の教師たちに今日の会議で騒ぎの原因を報告するようにと念を押された羽田は、重い気持ちで生徒に話しかけた。
「一体、何があったの?」
できるだけ優しく、けれども優し過ぎず。
……難しい。
はっきりいって、こういう時の対応が羽田は一番苦手である。
下手なことを言うと、生徒は親にあることないこと吹き込んでしまうのだ。
そうなると、悪くすれば教育委員会が出てくるほどの騒ぎになってしまう。
ここは慎重に、言葉を選ばなければ……
「だから、さっきも言ったじゃん」
生徒は仏頂面でそっぽを向く。
「何かが体にぶつかったのよね。でも、先生にはわからなかったの。何がぶつかってきたの?」
「馬鹿にしてんだろ!俺のこと、頭おかしいんじゃないかとか思ってんだろ!」
まずい。
生徒は再び興奮し始めた。
このままでは、また暴れ出すかもしれない。
なんとか、落ち着かせなければ。
「た、たしか、津山さんがどうとか、言ってなかった?」
羽田がそう言った途端、生徒は急に大人しくなった。
「そう。そうだよ。あいつが近くにいると、変なものが見えるんだ」
「変なもの?」
さっきもそんなことを言っていた。
一体どういう意味だろう。
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