《MUMEI》
電話の用件
.



「………そういや、携帯」



急に照れ臭くなった俺は、話をそらした。

稟子は、え?と真顔に戻る。

俺は出来る限り、そっけなく言った。


「電話、だれからだったんだろ…」


見当もつかない。

おもいあぐねていると、

ふたたび俺の携帯が鳴った。


今度は数コールで音が消える。


どうやら、メールのようだ。


俺は稟子に声をかけた。


「ちょっと確認してくれる?」


今日、俺が仕事中だということを、家族は知っているから、彼らではないはず。

だとすると、会社からか、取引先の人間か、どちらかのセンが強い。

仕事関係なら、黙って見過ごしてはいられないとおもったのだ。

俺のお願いに、稟子は素直に頷いた。

彼女は携帯を手に取ると、すぐさまいじりだす。


そして、呟いた。


「………メールだ。『カズヨシ』ってひとから」


俺は眉をひそめる。


「カズヨシ??」





…………カズヨシって。





『カズヨシ』というのは、俺の近所に住む幼なじみだ。

小さい頃からずっと一緒につるんでいて、バカげたことをたくさんやった。

腐れ縁ってやつで、カズヨシとは社会人になった今でも交流がある。





………それにしても。





「ホントに、カズヨシから??」


俺は訝しげに尋ねた。

予想外の人物からのメールだったから、なんとなく信じられなかった。

俺の問い掛けに稟子は、うん、と頷く。


「連絡くれ、だって。それしか書いてない」


俺は、ふぅん…と唸った。





…………カズヨシからだったら、


あとで電話し直せば、いいや。





俺が稟子に、サンキュー、と声をかけると、彼女は特に返事をせず、携帯をふたたびドリンクスタンドに戻した。







しばらく車を走らせると、すでに夕方に差し掛かっていた。

渋滞もなく順調に道路は流れていたものの、稟子を気遣い、ゆっくり走っていたせいで、予想通り、目的地の半分にも満たない。

本当は夜、どこかのサービスエリアで仮眠をとろうとおもっていたが、そんな時間もなさそうだ………。





………今夜は、徹夜で走るか。





そうひとりごちながら、俺は次の休憩のため、近くのパーキングエリアに立ち寄った。

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