《MUMEI》

車を停め、昼メシのゴミを持つと俺たちはそれぞれトイレへ向かった。

用を済ませ、トラックに戻ったが、稟子の姿はまだ、なかった。俺は先にトラックに乗り込む。


運転席に座り、深いため息をついた。





…………なんだか、疲れたなぁ。





ぼんやりしている俺の視界に、携帯電話がうつる。

そして、カズヨシのメールをおもいだした。





…………連絡くれって言ってたっけ。





面倒だったが、俺はドリンクスタンドに手を伸ばし、携帯を取った。


着信履歴を見ると、一番上にカズヨシの名前がある。

さっき、稟子と言い争っていたとき、電話をかけてきたのも、カズヨシだったようだ。

俺はカズヨシに電話をかけた。


数回、呼び出し音が鳴ったあと、


『…もしもし??』


カズヨシが電話に出た。


俺は受話器に向かって、よォ、と声をかける。

俺からの電話に、カズヨシはうれしそうな声をあげた。


『俊輔〜!!待ってたよ!!』


無邪気な声に、俺は笑う。


「すぐかけられなくて、わりィな。運転中だったんだ」


謝るとカズヨシは、おもいだしたように言う。


『もしかして、仕事中??』


悪かったな、と詫びてきた。俺は別に、いいよ、と答えた。


「それよか、どーしたんだよ。連絡よこせ、なんてメールまで送ってきてさ。なんかあった??」


俺が先を促すと、カズヨシはいきなりトーンを変えて、聞いてくれよ〜!!と大声をあげた。


『おまえ、『Lee』って知ってる??』





…………『リー』って。





「あの、失踪中のモデルだか、なんだかってヤツ??」


俺が尋ねると、カズヨシは驚いた。


『知ってた!?芸能関係にうといおまえでも!?』





…………聞いておいて、なんだその言い草は。





心の中で毒づく。


カズヨシはお構いなしに、話をつづけた。


『すっげー美人だよな〜!あれで、俺たちとタメなんて、信じられないよ!!』


話によると、カズヨシは『Lee』の大ファンらしく、彼女の写真集や雑誌はすべてコレクションしているのだと自慢された。

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