《MUMEI》 それから、延々と『Lee』に関する話をされる。 数年まえ、彗星のごとく日本のモデル界にデビューしてからというもの、そのずば抜けた美貌と身長で、国内のみならず、海外の有名デザイナーのコレクションでモデル業をつづけ、今や日本を代表するトップモデルなのだそうだ。 カズヨシの話に、俺は疑問におもった。 『Lee』という名前から、彼女は中国人だとおもっていたから、日本代表というのは、変ではないか。 そう尋ねると、カズヨシは呆れたように答えた。 『あれは芸名だよ。『Lee』は正真正銘の日本人!オフィシャルプロフィールにも、ちゃんと書かれてるよ!!』 そんなことも知らねーのかッ!!と逆に怒られた。 俺は釈然としないおもいを抱きながら、それで??と尋ねた。 「そのモデルがどうかしたのか??」 連絡くれ、と言うくらいだから、なんの用かとおもえば、カズヨシときたら、さっきから『Lee』の話ばかりだ。 俺の言葉に、カズヨシは、それがさ〜と残念そうな声で答える。 『あさって、『Lee』の新しい写真集が発売されるんだけど、そのとき、都内で握手会のイベントがあるんだよ』 …………ああ、 芸能人が、テレビでよくやるやつね。 「だから、それがどうしたんだよ??」 いい加減、うんざりして適当に言うと、カズヨシはいきなりいきり立つ。 『どーしたも、こーしたも、今、彼女、失踪してるじゃん。それでそのイベント、キャンセルになっちゃってさぁ…ちょー落ちて』 写真集は発売されるものの、イベントは中止になってしまったらしい。本人がいないので、当然といえば当然だが、カズヨシにとっては、相当なダメージをくらったようだ。 『俺、何ヶ月もまえから、ずーっっっと楽しみにしてたんだぜ。『Lee』ってあまり、そういうイベントしないからさぁ。せっかく生で見られるチャンスだったのに…』 なにやらぶつくさ呟いている。 俺はため息をついた。 「……用件は、それだけ??」 カズヨシは、うん、と明快に答えた。 俺は深く息を吸い込み、 携帯に向かって大声で言った。 「仕事中に、くだらない電話してくんなッ!!」 あばよ!!と吐き捨て、電話を切った。 直後、俺は酷い疲労感に見舞われた。 前へ |次へ |
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