《MUMEI》

その人の顔を見るとニコニコしていたけど、僕は克哉さんの事を思い出して泣きそうになっていた。

そういえば最近、克哉さんとデートもしてない…。

忙しいんだろうけど…寂しい。


「ワッターユードゥーイング?(どうしたんだい?)」

彼は僕の肩に手を回してくると心配そうに見つめてきた、どうやらいつの間にか僕は泣いていたらしい。

「ごめんなさい…エン…シュルディグン…///リメィンデッド オブ マイ ぁ アハマン…(夫の事思い出して…)」
「…アーユマリッジド?(…結婚しているのか?)」

マリッジ…?って…結婚…してるのかって?

…どうしよう…克哉さんの事思わず”アハマン(夫)”とか言っちゃったんだ。

克哉さんと一緒にドイツ語の練習した時にいつ使うワケでもないんだけど、覚えておけと言われて覚えてしまったんだった…。

「ヤ…アイハブトゥ ピッカップ キンドゥ(はい…子供のお迎えに行かなきゃ…)」
「ユゥーハブァキンドゥ…オーケィ(キミには子供が居るのか…分かったよ)」

お店にあった時計を見ると、そろそろくるみちゃんのお迎えに戻らなきゃならない時間になっていた。

「ダンケシェーン(どうもありがとう)」
「ビッテシェーン(どういたしまして)マン ズィートゥ ズィッヒ(また会おうね)」

それと…言わなきゃいけない事。

僕はイスから立ち上がると、その人の耳元に顔を近づけて『イッヒ ビン アイン メンシュ(僕は男です)』と、周りに聞こえないように小さな声で囁くと、彼は驚いたような顔で僕を見つめていた。

”ごめんなさい!”と心の中で何度も言うと、テーブルにお代分くらいのコインを何枚か置いて、その人は何か言っていたけど急いで買い物袋を抱えるとその場を後にした。


その人の話していたドイツ語は半分以上何を言っているか分からなかったけど、とても優しそうな人だった。

驚いてたな…怒ってなきゃいいけど…。

(そういえば…あの人何て言ってたんだろう…)

急いで家に帰って冷蔵庫に買ってきた食材を片付けてから、さっき言われたもので覚えていた単語を思い出しながら勉強の為に辞書を引いてみた。

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