《MUMEI》

「内緒で造った秘密の(あの子)を壊されるのが怖いんでしょ?」
弱虫なんだね、と子供らしい笑みを向けられ
その直後、突然に耳を引かれ少女の唇が近く寄って来た
「……壊して、あげる」
低い声が鳴り
何かを突いて刺す鈍い音。腕から大量に血が流れだす
人形の腕ではなく生身の右腕
それ故に感じてしまう痛みが全身に広がっていく感じがした
「あの子さえ居なくなっちゃえばおじさんを私のモノにできるもん」
だから壊すのだ、と
薄ら笑いで呟き、少女は身を翻すとその姿を消していた
サキは暫くその場に呆然と立ち尽くし
肩に刺さったままのナイフを漸く抜くと地面へと叩きつけていた
「痛ぇ……。ったく、最悪だな」
決して浅くはない傷をハンカチで抑え
地面に散って落ちた血痕へと砂を掛けると、事務所への帰路へと改めて付いた
流れる血は未だ止まらず
段々と血に塗れていく自身が堪らなく惨めに思えた
「所長、お帰りなさい。……その肩の傷、どうなさったんです?」
帰宅すなりやはり聞かれた
どう説明していいか分からず一言、こけたと言って返すしか出来ない
当然ライラはそんな言い訳では納得してくれず
睨みつけられた
「何を、やらかしたんです?」
「何もしてねぇよ」
「何もしていないのにその怪我ですか」
溜息混じりに呟くと
ライラはサキへ、手当をするから上着を脱ぐよう言って向ける
言われるがまま上着を脱ぐと、すぐ様濡れタオルが宛がわれ
血で汚れてしまった其処を拭っていた
「……一体、何があったんですか?」
やはり気に掛るのか、訳をきいてくるライラ
何があったか、そrについて状況理解が成されていないのはサキも同様
だが口を割らなければ減給だと言われ
仕方なくサキは話せる範囲での説明を始める
「変な、ガキが居たんだよ。ソイツにやられた」
「子供、ですか?それは一体……」
「俺が知るか」
溜息混じりにぼやいて返し
サキは血に塗れた上着をゴミ箱へと放り入れ
別のシャツを羽織りながら
「ライら、どっか行くのか?」
部屋を出て行こうとする彼女へと問うていた
途中脚を止め、振り返りながら
「新しい仕事の打ち合わせです。所長も行きますか?」
との誘い
だが素直に行く気には今はなれず、首を横へ
「遠慮しとくわ。ってか少しは休ませてくれよ。最近やたらと仕事が入ってるきがするんだが」
気のせいか、と愚痴る様なサキへ
ライラの肩が微かに揺れた
「仕方ありませんよ。うち、財政難なんですから」
それだけを言い残し出掛けて行くライラ
途中その後ろ姿に、姿が見えないコウの所在を何となく訪ねていた
「コウ君、ですか?つい先程出掛けて行きましたよ。何所に行くかまでは聞きませんでしたけど」
「そうか。引き留めて悪かったな。行っていいぞ」
「はい。少し帰りは遅くなるかもしれませんので、サンドイッチを作っておきました。お腹がすいた時にでも食べて下さい」
それだけを伝え、ライラはその場を後にした
その後ろ姿を見送って一人きり
肩の傷が途端に意識され、ひどく痛み始める
その痛みに、腹ばかり立った
「……壊されて、堪るかよ」
奥歯を軋ませながら呻く様に呟く
卓上に置かれているサンドイッチを早々に食べると、飛びだすかの様に外へと向かった
戸を開いてみれば
「所長?上半身素っ裸で何処行くんだよ?」
帰宅してきたらしいコウと出くわした
その手には大量の荷
どうやら買い物に出ていたらしく
無事なその姿に安堵する
「所長、寒くねぇの?そんな格好で」
サキの出で立ちを見たコウは訝しげな顔
肩を微かに揺らしたサキは、何でもないと一言だ
「何か飲むもんねぇか?」
「飲むもん?缶コーヒーならあるけど?」
「それでいい。寄越せ」
無造作に袋の中へと手を突っ込みそれを取って出すと、サンドイッチで早すぎる昼食
不機嫌そうに食事するサキを見
コウがやはり血の滲む肩に気が付いた
どうしたのか、とコウの手が伸ばされそこへと触れた途端
サキの表情が歪む
左肩から腕に掛けて突如として現れた痛み
だが、唯耐えるしか出来ず肩を手荒く掻き毟った
「しょ、所長!?どうしたんだよ!?大丈夫か?」
突然の事に当然驚き、コウは慌てて手を引く
その手首をサキは強く掴み上げると
「コウ、手ぇ洗って来い」
「は?」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫