《MUMEI》
何が?
彼が暴れ出してから、教室を出ていくまで、凜は全く動いていなかったはずだ。
ただ、笑みを浮かべていただけ。
「前にも見えたの?」
彼は首を振った。
「でも、他にも見たって奴がたくさんいる。
小学生の頃からそういう奴がいたんだ。
だから、みんなあいつの近くの席になりたくないんだよ」
俯いて答える生徒を羽田は見つめた。
嘘をついているようには見えない。
凜が同級生から文字通り距離を置かれている理由はそういうことらしい。
しかし、一体、何が見えるというのか。
「先生も津山さんの近くにいると、それが見えるのかな?」
「さあ」
「さあって……。彼女に近づくと見えるんでしょ?」
しかし、彼は口を尖らせて首を振った。
「いつもってわけじゃない。俺だって、今日初めて見たんだから。それに、見える奴と見えない奴もいるし」
なるほど、確かに彼が凜の後ろの席になったのは、二ヶ月ほど前。
しかし、今日まで何事もなく過ごしていた。
それに、羽田が担任になってすでに半年だが、こんな騒ぎは初めてだ。
「それで……」
羽田は頭の中を整理しながら一番気になっていたことを聞いた。
「何が見えたの?」
「だから、変なもんだよ!」
まるで答えになっていない。
「それは、生き物?それとも、物?」
「……多分、生き物」
「どんな?」
「うるさいな、知らねえよ!先生、俺、今日はもう帰るから」
限界か。
もう、何を聞いてもまともに答えてくれそうにない。
仕方なく、羽田は頷いた。
「じゃ、先生、鞄持ってくるから。待っててね」
彼はふて腐れたような表情で頷いた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫