《MUMEI》
言ってはならない一言
静果は迷った表情でおなかに手を当て、お頭や海賊たちを見た。
「小娘は小娘らしく甘えちゃいなさい。私も鬼じゃないんだから、許してくださいと頭を下げられたら、許しちゃうわよ」
揺さぶりを掛けるお頭だが、海賊たちは静果に声援を送る。
「バカ、謝るな!」
「意地と誇りを見せろい!」
唇を結び、無表情の静果に、お頭は言った。
「あんな荒くれ男たちに大切な体をメチャクチャにされていいの?」
静果は深呼吸すると、神妙な顔つきでお頭の前に行った。
「さあ、ひざまずきなさい」
静果は屈むと見せてボディに左ミドルキック!
「貴様!」
お頭は激怒して掴みかかったが、静果は振り切りバックステップ。
「あたしにもプライドがあるわ。だれがあんたになんか屈服するか!」
腹を押さえながらお頭は真っ赤な顔で言った。
「よくもやったわね。お前たち、この小娘を好きにしていいわよ」
「オオオオオ!」
何十人という荒くれ男たちが一斉に来た。静果は逃げた。しかしすぐに囲まれてしまう。
「一人の女に寄ってたかって、あんたたちそれでも男!」
「男だって証拠見せてやろうか?」
淫らに笑った男にいきなり金的蹴り!
「ぎゃっ…」
一人は倒したが、荒くれ男たちは興奮して柔道着を掴む。
「離せ!」
多勢に無勢。静果は押し倒された。そして柔道着の下を脱がされかかる。彼女は下着を身につけていない。
「やめなさいよ!」
必死に柔道着を両手で掴んで防御するが、背後から両腕を掴まれた。
「ちょっと待って!」
そんな哀願に聞く耳を持っているわけはなく、強引に柔道着を脱がしにかかる。
「待って、待って!」
そのとき。
「やめなさい!」
静果とは別の女の、凛とした声が迷路の出口から響き渡る。皆はそちらを見た。
夏希がいる。
「夏希…」静果は目を見開いた。
「嘘?」お頭も驚く。
海賊たちの動きも止まった。服を脱がされたのか、水着姿になっているものの、確かな足取りで夏希が歩いて来る。
「戻って来た。約束通り解放してもらう!」
しかしお頭は冷ややかな表情で答えた。
「そんな約束したっけ?」
「卑怯だぞ!」夏希が睨む。
「お前たち。鬼ごっこの相手が一人増えたよ。柔道着と水着。好きなほうを選びなさい」
「うひょー!」
「俺水着」
「俺も」
「俺は柔道着がいいな」
夏希は拳を握りしめた。
「卑怯な…」
半々に分かれた男たち。何人かが夏希に向かって突進する。
「卑怯!」
「わあああああ!」
突然ドエス魔人の顔面が目の前に現れたので、海賊たちは腰を抜かした。
いちばん驚いたのはお頭だ。
「そんなところで何をしてるのだドエス魔人!」
「僕もかなり卑怯なほうだけど、君らはもっと卑怯!」
お頭は、夏希が迷路を脱出できた理由がわかった。
「貴様、ドエス魔人。裏切ったな!」
「だって、お頭とお嬢じゃ、お嬢を選ぶでしょう。普通」
「普通…」お頭はわなわな体が震えた。「言ってはならないことを、いとも簡単に言ってくれたわね?」
お頭の怒りように、夏希も汗をかいて俯いた。
「お前たち。その化け物も一緒にやっておしまい!」
しかし海賊たちはドエス魔人を前に怯む。
「やっておしまいって言われても。どうやって?」
ドエス魔人が動いた。
「来ないならこっちから行くよん!」
「わあ、たんま!」
「あ、千切っては投げ、あ、千切っては投げ」
ドエス魔人が大暴れ。海賊たちがオモチャのように遠くへ飛ばされる。
「あ、千切っては投げ、あ、千切っては投げ」
鎧袖一触にも当たらない。力の差は歴然だ。お頭は迷路の中に走って逃げた。
「あ、待て!」
何と静果が追いかけて来る。お頭はオクトパエスが潜んでいる水まで行くと、振り向いた。
「娘。あなたのことは3回くらい助けたような気がするんだけど?」
「黙れ。よくも散々辱めてくれたわね?」
静果は構えた。しかしお頭も氷の微笑だ。

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