《MUMEI》

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俺はため息をついた。


そのとき、ふと、おもい出す。





−−−あのとき。





稟子が雑誌を破り捨てたとき、彼女は言った。





『いつから、気づいてたの?』





俺は慌てて雑誌の表紙を見た。


そこには、『Lee』の写真が載っている。

だれにも媚びない、あの、目つき。





…………ま さ か 。





いや、そんな、バカな……。





突如として沸き上がってきた疑問に、呆然としていた。



すると。



突然、なんの前触れもなく、助手席のドアが開いた。


「お待たせ〜!」


呑気な稟子の声がして、俺はビクリと肩を揺らす。それから恐る恐る振り返った。


稟子は普段と変わらぬ様子で、よっこいしょ、と掛け声をあげ、トラックに乗り込む。

ドアを閉めながら、女子トイレ混んでた〜!と呟いた。


「なんでオンナって、トイレの回転率があんなに悪いのかしらね」


ぶつくさ文句を言いはじめた。


「あんな臭い個室にこもって、一体なにしてんだろ??」


そうおもわない??と俺に話を振ってきたが、残念ながら、それどころではなかった。

なにも答えない俺を不思議におもったのか、稟子はそこで初めて、俺の方を見た。

そして、俺が手にしている週刊誌の端切れに、気づいた。


稟子は急に黙り込む。


俺も、なにも言わなかった。



お互いに、かける言葉を見つけられなかった。



それでも、お互いが、一体なにを考えているのか、手に取るようにわかっていた。



彼女はゆっくり顔をあげて、俺の顔を見つめた。

自然と、ふたりの視線が絡み合う。

稟子の目は、いつもと違った。

あの、野良猫のような目つきでは、なかった。


諦めたような、絶望したような。

頼りない、子供のような瞳。


どこか、ぼんやりと空虚な色を宿した、その双眸は、見ているだけで胸が痛んだ。





気づけば、太陽が、朱く染まっていた………。





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