《MUMEI》

そして最後の”マンズィートゥズィッヒ”は『また会おう』という意味だった。

(また、か…)

あの団地の辺りに住んでる人なのかな…あの辺に行く事はあまり無いだろうけど迷い込んだらまた出会ってしまいそうだ。

もうひとつ、英語だったような気がするあの”プア〜なんとか”という単語は『冷え性』という意味『Poor circulation』だった。

『寒いのかい?冷え性?』と言ってたのか…。

(冷え性じゃないよ…誰もかれも僕を女扱いしやがってー!)

「はぁ…」

でも克哉さんにも言われたけど、こんな見た目じゃ…しょうがないよね。


克哉さんのクローゼットを開けると、その中にあった皮のジャケットを着てみた。

「……大きい」

ウェストにベルトをすればなんとか着れたけど…鏡に映ったその姿は大きな男性用の服をわざと着た女性のようだった。

= = = = = = = = = = = = = = = = = = = =

克哉さんのそのジャケットを着て、くるみちゃんのお迎えに行った。

(くるみちゃん…イジメられて泣いてないかな…)

幼稚園で別れた時のくるみちゃんの泣き顔が頭に焼き付いて離れなかった。

(くるみちゃんの好きなお菓子…持ってきたし)

ジャケットの中からほんの少し香る克哉さんの匂いが…僕を包み込んでくれているようで、不安な僕の気持ちを落ち着けてくれた。

「あきらしゃん、遅いよぉ〜」
「え…くるみちゃん?」

幼稚園に迎えに行くと、気の抜けるくらい元気なくるみちゃんが笑顔で駆け寄ってきた。

「泣いてないね…良かった」
「おりぇはそんな赤ちゃんじゃないよっ」

気丈にそう言っていたくるみちゃんの後ろに、くるみちゃんより一回り小さな子がくっついていた。

ドイツの幼稚園のクラスは日本のように年齢で分けるのではなく、様々なグループに振り分けられるので違う年齢の子同士でお友達になったりする事がある。

だからくるみちゃんより年下の子なんだろう、その子はくるみちゃんを頼るようにギュッと腕にしがみついていた。

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