《MUMEI》

「… すみません お客さん !もう少しあちらの方へ詰めてもらえますか……」

店員の女の子が声をかけてきた 。
どうやら四〜五人連れの男性客が入ってきたようだ 。
フサシは二番隅のカウンターから少し怪訝そうな顔をして、やや焦点のズレてきた目で店内をぐるりと見渡す…
いつのまにかほとんど隙間がないくらい店内は埋まっていた


フサシはこの駅近くの大衆居酒屋には たまに知佳子と一緒に飲みに来ていた
夕どき店に入った頃には まだ後ろのテーブル席が 幾つか空いていたが 一人きりだったので遠慮してカウンターに座り… ひたすらビールと焼き鳥なんかをコツコツとやっていた 。


10人ばかし座ることができるカウンターには あとからやって来た若いカップルや 二…三人単独のサラリーマン風な客がポツポツと座って静かに飲んでいたが
フサシはカウンターの料理や灰皿を店の一番右隅に押しやると席を移動した


すぐに四五人連れのその団体客が店内のお品書きを見渡しながらカウンターにドカドカと座り込んできた


…会社の同僚たちなのか 年配者に一人に引かれたフサシと近い二十代〜三十代の男たちだったが… フサシはそのろくに 挨拶もなしに…また こちらを見ようともしない 隣の男の態度に憤慨し内心イラついていた 。


暫くして カウンターの一人客が《おあいそ》を告げたので フサシも 続いて 席を立った 。

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