《MUMEI》 . 夜通し走りつづけたおかげで、明け方には何とか青森に着き、高速を降りて一般道をひた走る。 車内は、相変わらず静かだった。 変わらないのは、流れてくるラジオの声だけ。 俺は稟子に話かけなかったし、それは稟子も同じだった。 寝てもいい、と言ったにも関わらず、稟子は一睡もせず、黙って助手席に座っていた。 ただ、ひたすら正面に伸びる道路を見つめて……。 ようやく先方の問屋に到着し、俺は駐車場にトラックを停車させた。予定よりも数時間、遅れた。 慌ただしくシートベルトを外しながら、稟子の顔を見た。 「ちょっと、荷物降ろしてくるから、おとなしく待ってろよ!!」 言い切ると、稟子の返事を待たずに車から飛び降りた。 そのままのスピードで、先方の作業員がいるところまで駆け寄り、明るく挨拶をする。 「遅くなりましたぁッ!!」 スンマセン!!と大きな声で詫びると、気にすんなよ!と豪快な作業員たちの笑い声がいくつも返ってきた。 俺は事務所に入り、担当者に伝票を渡すと、彼は少し申し訳なさそうに言った。 「ちょっと今、人が少なくてさ。悪いんだけど、荷物積んでくれるか?奥の倉庫にあるから」 今回の依頼は、ここへ荷物を降ろしたあと、さらに別の荷物を積んで東京にとんぼ返りすることになっていた。 担当者の頼みに、俺はニッコリ笑い、ハイ、と答える。 それから休む間もなく、俺は数人の作業員たちと、荷物を運びつづけた。 −−−そのさなか、 なんとなく気になり、 俺は、自分のトラックへ目をやる。 稟子が、助手席から身を乗り出して、こちらを見つめていた。 ぽつんと、頼りなさそうに肩を縮めて、俺の姿をじっと見つめている。 俺は作業の手を止めた。周りにいた作業員たちは不思議そうに俺の顔を見たあと、その視線をたどり、稟子の姿に気づく。 途端にざわめき出した。作業員のひとりがニヤニヤしながら、俺の肩をつつく。 「なんだよ、にーちゃん!カノジョ連れてドライブかよ〜??」 スミに置けねーな!と、からかわれた。 その中のひとりが、稟子の顔をじーっと見つめながら、ひとりごとのように呟いた。 「………なんか、見たことあるよーな気が……」 俺はドキッとする。バレたか……?? 心配していると、他の作業員たちが大声で笑い飛ばした。 「なんだそりゃ!!新手のナンパかよ!?」 「おまえ、キレイなオンナ見たら、いつもそう言ってるよな〜!?」 ギャアギャア騒いでいる。 とりあえず、バレなかったようだ。 ホッとひとり、胸を撫で下ろした。 俺はみんなの方へ振り向き、じっと彼らを見つめた。 ひとりひとり見つめたあと、 「カノジョじゃないっス」 はっきりと否定した。みんな信じてないようで、照れんなよ〜!と囃し立てる。 そんな中、俺は口元をほころばせ、柔らかい抑揚で彼らに答えた。 「………『迷子』なんスよ。送り届ける途中なんです」 俺の返事に、みんな一瞬キョトンとして、顔を見合わせていた。 . 前へ |次へ |
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