《MUMEI》

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荷物を運び終え、新たに別の商品を積んだトラックに、俺は乗り込んだ。

助手席には稟子が、俺に言われた通りにおとなしく座っていた。

シートベルトを閉めながら、俺は稟子に言う。


「これから、東京に戻るよ」


俺の言葉に稟子はハッとした。そして物凄い勢いで振り返る。


「……東京に??」


困惑顔の稟子を見つめ、俺は頷く。


「最初からそういう依頼だった」


淡々と答えると、稟子は眉をつりあげた。


「聞いてないわ!!なんで今まで黙ってたのよ!?」


「だって、聞かれなかったし。おまえは、遠くに行きたいってそれだけしか言わなかっただろ」


いたって平然と答える俺に、稟子は本気で怒り出した。


「冗談じゃないわよ!!東京に戻るくらいなら、わたし、ここで降りるから!」


ガタガタと慌ただしくシートベルトを外して外に出ようとする稟子の腕を、


俺はしっかりと掴んだ。


骨張った、華奢な腕だった。


「…おまえも一緒に帰るんだ。ここにおまえの居場所なんかないんだから」


諭すように言ったが、ムダだった。
稟子は泣きそうな声で叫ぶ。


「絶対イヤ!!今さらどんな顔して帰ればいいの!?もう、戻れないって言ってるじゃないッ!!」


稟子は俺の腕を振り払おうともがきながら、さらに大声でわめく。


「離してよ!!バカッ!!」


俺は、今にもつかみ掛かりそうな勢いの、彼女の肩を逆の手で掴む。


無理やりこちらを向かせて、


俺は今までにないくらい大きな声で、怒鳴った。





「いい加減にしろ!!」





ピタッと稟子の動きが止まった。俺は少し安堵する。

穏やかな口調で、つづけた。


「……もう、充分だろう?いつまで逃げるつもりなんだよ」


俺の声に、


見る見るうちに稟子の瞳が潤み出す。


「……あんたには、わかんないわよ」


わたしの気持ちなんか…、とぽつんと彼女は呟いた。

俺は、そうだな…と稟子と同じトーンで答える。


「俺にはわからないよ。そうやって無責任に物事ぜんぶを投げ出すヤツの気持ちなんか、全然理解出来ない」


俺の言葉に、稟子は涙で充血した目でギロッと睨みつけてきた。激しい怒りを宿した目つきだった。

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