《MUMEI》 彼女は甲高い声で言う。 「わかったような口きかないでよッ!!なにも知らないくせに!!」 俺は黙り込んだ。ただ静かに稟子の顔を見つめていた。 車内にラジオのニュースが流れている。 《……人気モデル『Lee』さんの失踪に関して、所属事務所社長から『Lee』さんへ向けて、マスコミ各社にコメントが発表されました…》 稟子は悲痛な声でつづける。 「すべてが他人に管理されていて、決められたレールの上をただ進むだけのわたしの気持ちが、あんたにわかるの!?」 《……事務所社長から所属タレントへのこうした呼びかけは、極めて異例のことで…》 「わたしの人生には、わたし自身の意思なんかひとつもないのよ!?それがどんなに惨めで苦痛か、あんたにわかる!?」 《……それに重ねて、恋人と噂されるアイドルグループの『シド』さんからも、『Lee』さんを心配する内容のコメントが送られ……》 「もううんざりなのよ!!こんなつまらない人生、わたしは望んでなかったのに!!」 そこまで言って、稟子は泣き出した。 ボロボロと大粒の涙を流しながらも、それでも俺を睨みつけるのをやめなかった。 俺は彼女の肩を掴んでいる手に、力を込める。稟子は肩を激しく上下させて、黙り込んだ。 −−−そして、 「……自分のことばっかりじゃん」 静かな声で、呟いた。 稟子は聞き取れなかったのか、え?と聞き返してきた。 俺は深呼吸をひとつして、言った。 「おまえがどう思おうが、もう、おまえの人生は動き出してるんだよ。それと重なる人たちの人生も。おまえが逃げたら、周りの人たちはどうなる?そういうこと、一度でも考えたこと、あんのかよ?」 稟子はなにも答えず、俺の顔を見つめたまま、動かなかった。 俺はつづける。 「甘えるな。ちゃんと自分と向き合えよ」 稟子は首を微かに振った。もう、ムリ…と呟く。細い肩が、小刻みに震えていた。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |