《MUMEI》

「服、着たね?」

服を整えられて、鞄を持ってくれる。


「うん。」

手際よく俺を連れ出してくれた。


「七生……あのっ……安西は……」

放心状態だったから、七生の迎えに来てくれた車に乗ってから気付く。


「……もう、いいんだよ。あいつは、あいつでなんとかやるさ。」

七生が俺をずっと見てくれていたお陰で気持ちが休まる。
踞っていた安西が丸い塊に見えていた。
靄がかっていて俺はそれに近付くことが出来なかった。
刃物が傍に横たわっていたせいもある。
もしかしたら、俺がぼんやりしている間に七生がすぐ連れ出していたのかもしれない。


「そこで停めて、俺、二郎と歩いて帰る。」

家の付近で降ろされた。


「……鞄持てるよ。」

催促するが返してくれない。


「ヤダネ、お前ごと持って帰りたい。」

七生が本気で言ったということは顔を見たら分かる。


「無茶苦茶だ。」

七生に常識なんてあるか分からないけど。


「俺に常識なんてもの無い。」


「……それ」


「ん?」


「今、思った。」

口元が解けてく。

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