《MUMEI》
足音
 カツカツと、二人分の足音が聞こえる。
しかし、そのうちの一つは音の間隔が不規則だ。
どうやら、片足を引きずっているらしい。
怪我でもしているのだろうか。

ユウゴは入口からそっと外を覗いてみたが、人影は見えない。
位置を変えようと、そっと立ち上がったその時だ。
突然、扉が左右に勢いよく開かれた。

「やっぱり、お前か……」

扉を開いたその格好のままで、目の前の人間は言った。

ユウゴは驚きのあまり、声を出すことができない。
その代わりのように、ユキナが茫然と呟いた。

「……よ、由井さん?」

「なんだよ?幽霊でも見たような顔して」
そう言って、皮肉っぽく笑う由井の姿は、すでに二日前の由井とは別人だった。

 服は血に染まり、左手は薄汚れた包帯でグルグル巻きにされている。
笑みを浮かべるその顔は、死んだように力がない。
それなのに目だけは恐ろしいまでに鋭く輝いているのだ。

そこに宿っているのは、おそらく、怒りと憎しみ。

「おい、ユウゴ。いつまで黙ってんだ。いい加減なんとか言えよ」
しかし、ユウゴは何も言葉が出てこない。
「ビビってんのか?だよなぁ。おまえ、裏切り者だもんな」
「違う!それは違う。俺は、裏切ってない……」

 ようやく言えたユウゴのその言葉に、由井の眉がピクリと動いた。

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