《MUMEI》
ドエスの弱点
静果は慎重に歩み寄る。水に入るのは危険だ。
お頭は背水の陣。
静果が踏み込む。ボディに左フロントキック。お頭が足を掴んだ瞬間に飛んだ。
延髄斬り!
「あああ!」
お頭ダウン。首筋を押さえながら怒りの表情で静果を見上げた。
「やったわね。もう謝っても許さないわよ」
「うるさい!」
「泣いて謝るあんたの顔を見るのが楽しみ」
「黙れ!」
静果は、倒れているお頭を水の中に入れようとボディにキック。足首を掴まれた。外そうとしたがお頭は自ら水に飛び込み、静果も一緒に引きずられた。
「まずい!」
水中。早く脱出しなければ。必死に泳ぐ。
何かに足を掴まれた。両手もぐるぐる巻きにされ、逆さまにされた。もがいても水中ではどうにもならない。
「ぷはー!」
柔道着がずぶ濡れだが、静果は何とか陸に上がった。疲労ですぐには起き上がれない。
「ん?」
オクトパエスはまた相手を間違えてた。
「しまった!」
慌ててお頭を陸に上げたが虫の息。驚いたのは静果だ。尻餅をつきながら見ていると、半失神のお頭が長いものに巻かれながら陸に上げられている。
「何あれ?」
顔をしかめて見ていると、水中から巨大なタコが現れて、喋った。
「かわいい。タイプ」
静果は顔色がない。水中からは長い足が伸びて来る。
「おいで」
「き、き、きゃああああああ!」
静果は一目散に走って逃げた。
「惜しい。あんなかわいいおなごを逃すとは。オクトパエス一生の不覚」
そう言うと、再び水中に潜っていった。
海賊のアジトから脱出した静果と夏希は、林の前にいた。残念ながらドエス魔人も一緒だ。
柔道着姿の静果は、ドエス魔人を見上げた。
「ありがとう魔人さん。助かったわ。何てお礼を言っていいかわからない」
「わからないなら教えてあげる。柔道着を脱ぎな」
「え?」
冗談だろうと思ったが、静果は下がった。すると、ドエス魔人は沈んだ表情の夏希に言う。
「お嬢。約束は忘れてないね?」
「もちろんよ」
「夏希、どんな約束をしたの?」静果は心配顔だ。
夏希は水着の紐をいじりながら小声で呟いた。
「友達を助けてくれたら、あたしの体を好きにしていいって」
「バカ!」
「違うよ静果。くすぐりの刑に遭わされて、そう言うしかなかったの」
静果はドエス魔人を睨んだ。
「くすぐるなんて、卑怯なことするのね」
「そういう生意気な態度取ると、そっちのお嬢もくすぐるよん」
「やめなよ、あたしが目的なんでしょ?」
静果の前に出る夏希。しかし静果が夏希を制して前に出た。
「魔人さん。あたしをやりなさい。あたしのほうがかわいいでしょ?」
「何と」ドエス魔人は焦った。
今度は夏希が前に出る。
「何言ってるの、あたしのほうが魅力的でしょ?」
「よく言うよ、あたしのほうがセクシーでしょ?」静果は両手を広げて魔人に迫った。
「そんな…」なぜかドエス魔人の顔が青い。
「魔人さん、柔道着より、やっぱり水着でしょ?」
「柔道着のほうがマニアックでしょ?」
「関係ないわ、この子マグロだから面白くないよ」
「だれがマグロよ!」静果は本気で怒った。
「やめんかい我!」
ドエス魔人が怒鳴った。二人は意味がわからず、首をかしげる。
「やめて、とか、絶対何もしないで、とか言われると燃えるが、抱いてとか、どうぞとか、迫られると今いち萌えんのやあ。これがドエスの弱点。辛いとこよ」
静果と夏希は同時に呟いた。
「やっぱり単なる変態だったか…」
ドエス魔人はゆっくり林に向かう。
「まあ、このまま退散すれば、かなりポイント高いかね?」
「メチャクチャ高いでしょ」静果が笑顔で言った。
「二人とも達者で」
「ありがとう」
夏希に見つめられて満足の笑みを浮かべると、ドエス魔人は敬礼ポーズ。
「それではさらばだ」
林の中に消えた。静果と夏希は一気に脱力。その場にすわり込んだ。
「助かった」
「危なかったね」

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