《MUMEI》 日が昇り、トラックの中で眠っていた俺たちのもとへも、朝がやって来た。 今日は、きっと、一生忘れられない朝になる。 稟子と過ごす、最後のときだから。 俺たちはサービスエリアのコンビニで、適当に食事を取り、そこから立ち去った。 車の中は、やっぱり静かだった。 でも、変な緊張感はない。 ゆったりと、落ち着いた空気で満たされていた。 ジャンクションで高速を乗り換えて、東京へ向かう。 東京から青森までの往復は、とても長い道のりだったはずなのに、不思議と短い時間に感じていた。 それは稟子も同じだったとおもう。 高速を降りて、一般道へ入る。 コンクリートやビルに包まれた無機質な街中に囲まれると、稟子の表情は、だんだん固くなっていった。きっと緊張しているのだ。 俺はチラッと隣の稟子を流し見て、呟く。 「ビビんなよ。おまえの居場所は、ここにあるんだろ??」 俺の台詞に、稟子は振り向き、あの挑戦的な目つきで睨んできた。 そして、言うのだ。 「言われなくても、わかってる!!」 俺は一瞬キョトンとして、思い切り吹き出した。 …………まったく、 頼もしくなったもんだ。 そのまま車を走らせて、渋滞に巻き込まれながら、ようやく東京駅に着いた。 駅前はたくさんの人たちでごった返している。 車のデジタル時計を見た。 午前10時を過ぎたところだった。 俺は稟子の顔を見る。 彼女は依然として強張った表情のまま、俯いていた。 タオルケットを握りしめ、必死に気持ちを落ち着かせようとしているみたいだった。 そんな彼女に、 俺は言う。 「急げよ。もう時間、ないんだろ??」 稟子はハッとして顔をあげた。 戸惑ったような目をしていた。 まだ呆然とする彼女を尻目に、俺は自分の財布を取り出し、そこから札を何枚か抜いた。 その金を、稟子の手に握らせる。 「電車賃に使って。出世払いで返してくれればいいから」 言ってから、身を乗り出して、助手席のドアを開けてやる。 稟子のきれいな顔が、すぐそばにあった。 見つめ合ったまま、俺は囁く。 「……早く、行けよ」 俺の言葉に、 稟子は唇をひきしめて、俺の金を握りしめる。彼女は俺に向かってしっかりと頷くと、シートベルトを外してトラックからひらりと降りた。 野良猫のような身軽さで。 . 前へ |次へ |
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