《MUMEI》 「笑えてるよ、二郎。」 頬に七生の指が乗る。 「そうだね、不思議。」 「……おーちゃんに電話したのはどうして。」 「神戸に……、俺が?そんな記憶無い。」 近くにあった携帯を握り締めていた気はしたが。 「俺のことは忘れていたから?」 そこを引っ張り出されると反論出来ない。 「偶然だよ。 きっと、神部に奇跡的に繋がったんだ。」 「最近、おーちゃんと仲良しだったろう。」 「邪推しないで。だって、神部は可愛い後輩だろ?」 「安西もそうだった。」 「……っ。」 そこで、言葉が詰まる。 「……俺の悪い癖だ。ごめん。」 七生が頭をぐしゃぐしゃ掻きながらしゃがみ込む。 俺を見上げる姿は大型犬のようだ。 「ななお、反省してる。」 ご褒美に、耳の後ろから撫でてやる。 「………………手首が、」 そうだ、怪我したんだ。 「さっきの手錠が。」 見られないように隠す。 「は!?俺だってまだ……っ」 七生が両手で口を覆う。 「まだ?」 まだ、なんだ。 「も、いい。」 自分なりに解決したのか? 「怒ってる?」 「かなり。ね。」 その目が、俺を捉えると足が竦む。 「どの辺?」 「忘れられたり、安西に頼られたり、捕まったり……全部それをおーちゃんに聞いたこと。内館七生が、お前のヒーローになれなかったことに怒ってる。」 「そんな、仕方ないよ。七生がこうして来てくれたので十分だから……もう大丈夫。七生には新しい家族も居るし早く帰らなきゃね。皆、心配する。」 七生の肩に掛かる鞄に手を置く。 携帯の鳴る音がした。 「……七生。鳴ってる。」 「いい。」 バイブ音がメロディと同調している。 「出て。俺を理由にしないで。」 家族を失望させてはいけない。 心象悪くしたら俺が嫌だ。 「今は二郎の時間だからいいの。」 携帯を開けたがすぐに閉じた。 「そうやってご機嫌取りしなくたって七生のことちゃんと想ってるから。」 着信の名前が 瞳子さんだった。 前へ |次へ |
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