《MUMEI》

S 市 海岸近くの公園


フサシは自宅のアパートから6 キロメートルも離れている 公園の一番明るいベンチに腰をかけ、持ってきた小さな木箱から携帯を取出していた 。

すぐそばに広がる湾からの吹き付けてくる潮風が甘かった

遠くに見える暗い砂浜とその周りの堰堤には何組かのカップルの姿が… 薄く滲む墨画のようにくっついたり離れたりと微かに動いて見えたが フサシのいる公園に 人影はなかった



『ボクは教授の携帯を取り出すと 暫く眺めたり 機能ボタンを いろいろ押してみたりしていた……
果たして繋がるのか …そうこうしているうちに 電池量が減ってきているのに気が付いた…』

『…… 無作為にボタンを押してみた…適当に携帯番号を押してみた……080ー××××ー×××× と……スリルと恐怖が入り混じってボクの心臓はパクパクと音を発てていた


《繋がったら どうしよう…すぐに切ろう…と……耳にあてながら誰か出てくればすぐに切ればよい……こちらの発信番号は非通知になっているはずだと……… 》


無作為にかけた最初の番号は 繋がらなかった……プー プーと 発信音が するだけだった……… フサシは別の番号を勝手に押してみた…… 080ー××××ー×××× …………
暫くして ぷるぷる宸ユるぷる宸ニ あの 携帯音が聞こえてきた


『……… 繋がった! !』
しかしフサシは怖くなってすぐに携帯を切ってしまった !

…教授の携帯は 確かに活きていた……

フサシは恐る恐るにまた携帯番号を押してみた ×××ー××××ー××××
また 繋がった!!向こう側で呼び出し音が鳴っていた……… 今度は 暫く耳にあててみる
すると…突然携帯から男性の 声 が フサシの耳に 飛び込んできた ……


『 はい …もし もし……誰…… ? 』

フサシはさすがに怖くなって一言も言えずに携帯を 切ってしまった……

出てきた男は……多分三十代以上の男性だろう…

男は…かけてきた 非通知の相手に対して顕らかに警戒をしている様子の口調だった…

そしてまた 違う番号を押した……
フサシはその恐怖の刺激にある快感を得て興奮している自分をまだ知らなかった……

また 悪いコトに寥qがってしまった ! 今度は すぐに出てきた…『もしもし……ダレ〜じゅん〜?……
若い……それもまだ 子供の女の子のような声だ…その声の持ち主はダレかと勘違いしている様子だった…

フサシは高鳴る心臓の音を押さえて 口を開いた


『……あ ……間違えました ……スミマセン …… 』

女の子らしき 声の持ち主は 『はい … 』と 一言言ってすぐに携帯を切った……

どこの誰かもわからない………全く相手からすればいい迷惑なコトだが……

《 これで…この携帯が普通の携帯と同じように使えるのがわかってしまった……しかし教授は何故……この銀色の重い古くさい携帯の存在をボクに隠したのだろう………



いつのまにか月は隠れていて…鉛色の雲が厚く覆いかぶさるようになると… ポチ…ポチと 小雨が 落ちてきた 。



そして見えない携帯の向こう側が恐ろしい事件現場になっている事を……このときのフサシは知るよしもなかった……… 。

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