《MUMEI》 もうひとつの『意味』. −−−数年後。 久々の休みに、 俺は近所のラーメン屋で、幼なじみのカズヨシと一緒に昼メシを食っていた。 昼時ということもあり、店の中はそこそこ混み合っていた。 店の奥にはテレビが設置されていて、昼の人気ワイドショーがうつされていた。 時折、そのテレビのスピーカーから出演者たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる。 −−−そんな中で。 「……いやー、最高だなッ!!」 満足そうに、カズヨシは言った。 『最高』という台詞、これで5回目。 さっきから同じことしか言わない。 俺はラーメンをすするのをやめ、顔をあげた。目の前には、カズヨシがなにかに酔いしれたような顔をしている。 「やっぱり、最高だよ!!『Lee』ほど凄い才能を持ったヤツ、芸能界ではいないだろ?」 熱意のこもった幼なじみの言葉に、俺は気のない相槌を返した。 カズヨシは気にとめずつづける。 「女優業に転身したときは、どーなっちゃうんだろって心配だったけどさ〜、今や映画祭で賞を総なめにするくらいの大女優になっちゃって。すっげーよな、最高だよ!俊輔もそうおもうだろ??」 7回目の、『最高』の台詞。 俺はいい加減、カウントするのに飽きてきた。 しかし、カズヨシは話をやめない。そういえば…と、つづける。 「数年前にさ、『Lee』、失踪したじゃん??」 油断していた俺は、思わず吹き出しそうになる。 ゴホゴホ、ひとりでむせていると、カズヨシが変な顔をして、どうしたんだよ、と尋ねてきた。 俺は首を横に振り、なんでもない…と答えて、箸でラーメンを掴み、すすった。 カズヨシは首を傾げながらも、ふたたび顔を明るくして、それでさ!と話を始める。 「あのあとひょっこり現れて、それからなんか『Lee』の雰囲気、変わったよな〜」 俺は箸を止める。 ゆっくりと顔をあげて、カズヨシを見た。 「……どんなふうに?」 カズヨシは、俺が初めて話に食いついてきたと喜び、明るい声で言った。 「今までは、なんかツンケンした顔ばっかで、写真とかも無表情だったんだけど、最近はさ、笑うんだよね。すっげー無邪気にさぁ。見てるこっちが、楽しそう〜!!って思えるくらい」 俺はゆっくり瞬いた。 そして俯き、口元をほころばす。 …………頑張ってんじゃん。 「なに?」 ぽつんと呟いた言葉を、カズヨシは耳聡く拾うが、俺は無視した。 . 前へ |次へ |
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