《MUMEI》 カズヨシは特に気にした様子もなく、のびはじめたラーメンを箸で掻き混ぜながら、あっ!!とおもいだしたように声をあげた。 それから、俺の顔を見て、尋ねてくる。 「そういや、なんでわかったんだよ!?」 脈絡のない質問に、俺は眉をひそめる。 「なにが?」 カズヨシはじれったそうに、だからさ〜と語気を強めた。 「何年か前の、『Lee』の握手会のイベント!!電話して、教えてくれたじゃん!?」 俺は記憶をたどる。 間違いなく、電話して教えてやった。 カズヨシは眉をひそめて、腕を組む。 「テレビでも、ネットでも、そんな情報流れてなかったのに……しかも、おまえ仕事中だったろ??どうやってネタ仕入れたんだよ?」 俺は首を傾げて、それから箸を動かした。 「……さあね。忘れたよ、もう」 そう呟いて、ラーメンを食べる。 はぐらかした俺に、カズヨシは非難の声をあげた。 「なんだよ〜、教えてくれたっていいじゃん!!」 しつこいカズヨシを、俺は半眼で睨みやる。 「いいじゃん、別に。おかげでイベント間に合ったんだろ??」 俺の平然とした言葉に、カズヨシは唇を尖らせて、そうだけどさぁ…とまだ納得出来ないようで、ようやく黙り込んだ。 静かになった俺たちのテーブルに、 テレビの音声が、微かに流れてきた。 《………ご紹介します、本日のゲストは、今まさに人気絶頂の女優・『Lee』さんで〜すっ!!………》 司会者の声のあと、喧しい拍手が聞こえた。 俺は顔をあげて、テレビを見る。 その画面に、大きくうつし出されたのは、 美しく着飾った、ロングヘアーの美女。 なによりも、印象的なのは、 だれにも懐かない、野良猫のような、 挑戦的な、目つき−−−−。 彼女の顔を目の当たりにした途端、 胸の中に、暖かい気持ちが溢れ出した。 なにも、言えずにいると、 俺と同じようにテレビを見たカズヨシが、大声をあげて騒ぎ出した。 「『Lee』じゃんっ!!ヤッベー!!チェックしわすれてた!?」 ひとりでまくし立てて、ラーメン屋の親父さんに、もうちょっと音量あげて!!とお願いしている。 そんなカズヨシを見て、 俺は少し、恥ずかしくなった。 親父さんはリモコンを使って、目一杯音量をあげてくれた。 カズヨシは急におとなしくなり、テレビを食い入るように見つめている。 俺はカズヨシの代わりに、親父さんに礼を言った。 . 前へ |次へ |
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