《MUMEI》 相田貴志視点放課後、部活が行われる体育館に向かう途中で、携帯が震えた。 (愛理? …珍しいな) 吾妻高校は、携帯の持ち込みや使用は禁止していない。 しかし、さすがに教師が廊下で使うのは 少なくとも、俺はまずいと判断した。 (職員室に戻るのもなんだし…) 妻からの電話をからかわれたくない俺は、結局一旦外に出て、自分の車の中で話す事にした。 《遅い》 「ごめん。どうした? そっちで何かあった?」 愛理は今日、いとこに譲った雑貨屋 『アニバーサリー』の抜き打ちチェックの為に地元に帰っていた。 《あのさ、薫子がおまけしてくれるって言ってるんだけど、どうする?》 薫子さんとは、和菓子屋『花月堂』の娘さんで、愛理とは古くからの友人だから、いつもおまけをしてくれる。 「珍しいな。俺に相談なんて」 愛理はいつもは自分の好きな和菓子を選んでいた。 《今回は、演劇部の部員達の分頼んだから、四個いいって言うんだもん。二つは私と貴志で決まりだけど、残り二つ頼んでよ》 「あぁ、それじゃ、洋子用と、田中君用に何か選んでくれ」 俺は迷わず最近ストレスを抱えていそうな二人を選択した。 前へ |次へ |
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