《MUMEI》
見た悪夢
「う‥そ…。」

加奈子は口に手を当てて、話の残酷さに絶句した。

「俺の両親は殺されたんだよ。」

男はじっと自分の手を見ていた。
獣の様な気味の悪い自分の手を…

加奈子はその様子をただ見ながら、何も言えずに固まったままだった。


「この手…」
「え?」

男は自分の手を見つめながら、ようやく口を開いた。
「俺が意思を取り戻した時な、この手…真っ赤だったんだよ…」

音一つしない部屋に、男の声だけが静かに響く。

「多分…いや、確実に俺が、俺が実の親をこの手で…」
「そんなのわからないじゃない!!」

その先を聞きたくなくて…
その先を言わせたくなくて加奈子は叫んだ。

「記憶が無いんでしょ?だったら…」

「夢で見るんだよ。」

夢…


「それって、さっき唸されてたやつ?」

「そう。父と母が俺を見て怖がってるんだ。俺はそれが哀しくて…でも何だが面白くて…」


哀しいけど面白い?
一体どういうこと?


加奈子は頭がこんがらがってきた。

「それから突然叫び声が聞こえてきたかと思うと、視界が真っ赤になって…。
その時俺は…
俺は…笑ってた。」

「笑って‥た?」


ますます分からなくなってきた。
親が目の前で死んでいるというのに、笑ってた…?


「でも泣いてた。」
「は?」
「心は泣いてたけど、身体は笑ってた…そんな感じ。」


え〜っと、それは…
一体何?


加奈子の頭脳は完全に追い付かなくなっていた。

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