《MUMEI》

「一人で行けるようになればいいなぁ…」
「うん…でもねぇ〜このお部屋は何かいそーなんらよなぁ〜」
「……古い建物だから、何かは居るだろうな」

たまに不穏な事を言うくるみのトイレの様子を見守ってやる。

くるみは服も自分で脱げるし、一応自分でトイレも出来るのだが、夜のトイレだけは誰かに見ていて貰いたいらしい。

くるみはトイレが済むと、おぼつかない仕草でちゃんと自分で寝巻きを上げて不器用に手を伸ばして水を流そうとしていたが、そのコックが高くて届かないらしかった。

まだまだチビなくるみを可愛らしく思いながら、俺が水を流してやった。


手の掛かる時期は、一番可愛い時期か…。


くるみを抱きかかえて洗面台で手を洗わせると、その頭にタオルをパサッと落としてやった。

「あきゃっ!…ねぇ、しゃっきあきらしゃんに何してたのぉ?」

くるみはタオルで遊びながら手を拭くとピョンピョンと飛び跳ねて、まるで遊びたい盛りの子犬ような顔で聞いてきたので、口の前に人差し指を立て静かにするように言った。

「シッなの〜…兄ちゃ…?」
「あぁ…美しいアキラの細かい所までじっくりと眺めていたんだよ、お兄ちゃんの秘密の趣味だからアキラには絶対に言うなよ…」
「うん、わかった!」

急に大きな声を上げて飛び跳ねたくるみの口を塞ぐと、少し開いたベッドルームのドアの向こうを伺った。

だが、一度寝たらほぼ起きないアキラなので、起きてくる様子が無くホッと胸をなで下ろした。



「静かにしろ…もし聞かれてもアキラに分からないようにドイツ語、いいな」
「ヤぁ(はい)…」

アキラはここドイツでたまに日本語の音を聞くと反応したりするが、まだ慣れないドイツ語を聞いても周囲の環境音か何かだと思って聞き流す事があった。

なので、結局ついてきて『見る〜!』と言って聞かないくるみをベッドルームに入れると、さっきの決まりを確認し合い、ベッドの上に座らせてからアキラの寝巻きのボタンを外していった。

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