《MUMEI》
歩と美早希
   〜歩視点〜


ふぁぁ〜


大きなあくびをしながら玄関のドアを開け外へ出ると、少女の姿が視界に入り驚きのあまり目を見開く。


び・び・びびった〜!


玄関のすぐ横の壁に背をもたれていた少女は


「驚きすぎ」っと笑いながら言った。


「いや居ると思わなかったから・・・」


未だ目をパチクリさせている俺を気遣うこともなく鼻歌を歌いながら、俺の自転車を持ってくる少女――美早希に苦笑いを浮かべながら近づいていく。


「さっ学校行こ」


美早希は自転車のサドルをポンッと叩き、俺を自転車に乗るよう促す。


相変わらずマイペースだなぁ・・・。


昨日あんな場面を見られたにも関わらず美早希の態度は、いつもと変わらなかった。


美早希を後ろに乗せ、自転車を漕ぎ始める。


「ねぇ歩・・・?


昨日の私見て引いた?」


表情は見えないが、いつもより少し弱々しい口調で呟く美早希の言葉に俺は小さく笑ってしまった。


態度変わらないって思ってたけど、美早希なりに昨日のこと気にしてたんだな・・・。


「何がおかしいの?」


俺が笑ったのが気に障ったのか美早希は、少し低めの声で質問する。


「いや美早希でも気にするんだなっと思って。


てか今さら引くわけないだろ〜!


何年一緒に居ると思ってんだよ!!


美早希が理由もなくあんなことする奴じゃないってことぐらい分かってるよ」


美早希の質問に俺は素直に思っていることを口にする。


「そっか・・・。


歩ならそう言ってくれると思ってた!



半殺しにした人間の中で今でも私とつるんでるの歩ぐらいだもん!」


普通の女の子からは出て来ないような言葉を言っているにも関わらず、本人は可笑しそうにケタケタと笑っていた。


俺以外にも美早希に半殺しにされた奴何人か居たなぁ・・・


しみじみと懐かしく思い出す。


そんなやりとりをしている内に学校に着き、自転車を停め教室へ向かう。


階段を登っていると美早希が口を開いた。


「歩、ありがとね」


それは今まで聞いたこともないような穏やかな声だった。


そして満面の笑みを浮かべながら美早希は言葉を続ける。


「ほんっとに歩っていい奴だよね」


じゃあまたねっと美早希は手を振りながら、自分の教室へ入っていった。


美早希は、短気だし頑固だし怒ったら手に負えない。


でも嘘は絶対つかないし人のために一生懸命になれる、そういうところを知ってるから一緒に居るんだ。


本人は自分のいいところに気付いてるのか知らないけど・・・。




自分の教室に着き、1番に目に入ったのは北川 真星と楽しそうに話をしている麗羅チャン。


自分に向けられた笑顔ではないが、麗羅チャンの笑顔に癒される。


俺が麗羅チャンを笑顔にしてあげたい――そう思うのは本当だけど


・・・麗羅チャンが笑ってるなら、その笑顔を見れるなら隣に居られなくてもいい、そう思う自分もいる。


「よっ歩!」


肩をポンっと叩かれ我に返る。


挨拶をしてきた男――海に挨拶を返すと、海が包みを俺に渡してきたので、クエスチョンマークを頭に浮かべながらも受けとる。


「これ麗羅チャンから!」


その言葉に俺は目を見開き、何も考える暇なく麗羅チャンの席にダッシュして向かっていた。

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