《MUMEI》

シホは、相変わらずのわたしを見つめ、「気持ちはわかるけど……」と呟きながらため息をついた。


「そんな怒ったって仕方ないじゃん。もう、やられちゃったんだし」


わたしはギロッと淡々と言葉を口にしたシホを睨む。


「………『仕方ない』??」


シホは少しうんざりした顔をした。余計なこと言ったな〜と、後悔しているに違いなかった。

わたしは語気を強めてつづける。


「仕方なくなんかないよッ!!これで何回目だと思う??今月に入ってから、もう3回目だよ、3・回・目ッ!!トータルじゃ数え切れないッ!!つーか、覚えてないッ!!」


一気にまくし立てた。シホは耳の穴を指でふさぎつつも、ウンウンと頷いていた。

怒りがおさまらないわたしは、堪えられずさらに彼女にぶちまけた。


「ウチだけじゃなくて、他のお店も被害に遭ってんの!!きっと、完全に面白がってるんだッ!?フツー怒るでしょっ!!怒るよねっ!?あ゙〜も〜ぉ、最・低ッ!!?」


そう言い切って、わたしは机に突っ伏した。その頭をシホが、イヌにするように「ヨシヨシ」と優しく撫でてくれる。


わたしが怒り狂っていたのに気づいたのか、クラスメートの長島君がニヤニヤ笑いながら、声をかけてきた。


「なんだよ秋元、朝から機嫌悪いなぁ〜」


声だけで相手が長島君であることを、瞬時に理解したわたしは無視を決め込んだ。顔を伏せたまま、あげようとしなかった。

どうもわたしは、この長島君が好かないのだ。

動かないわたしに代わり、シホが長島君の顔を振り向き、穏やかに答える。





「またお店のシャッターに、《グラフィティ》、描かれちゃったんだって」










………《グラフィティ》、というのは。






街をカンバスにして、ペンキやスプレーで絵を描く………一般的に、《ストリートアート》と呼ばれるもの。






………ほら。


たまに公園のトイレとかに、

カラフルで、ヘンなアルファベットの羅列があったりしない??





−−−そう、あれのこと。





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