《MUMEI》

 
 
「オハヨー樹!」
何食わぬ顔で若菜が挨拶をする。
強い、彼女は。



それに比べ自分ときたら情けない。


「俺、空手また始めようかな。」


「えー!何よ急に。

怪我してるじゃない。それにバイトしながら出来る程甘くないんだからね」
若菜の辛口コメントがよく身に染みた。


「でも結構強かったって聞いたけど」
中林春道が割って入ってきた。
「手がスゲーもん
まだたまにやったりするの?」
ぺたぺた体に触ってきた。


「すっごい暇なときは道場行ってました。」
昔は本当に好きだったのだが、今はそう熱くなれず、結局辞めた。



俺は、一体なんなのか、
自分のことこそ理解出来ないものはない。



「柔道部来いよ
今なら優しい先輩ついてくる!」


「えー優しい?」
若菜は悪戯に微笑んだ。


「おだまり!」
中林先輩と若菜のやり取りは絶妙で仲睦まじい親子を見ているように和やかになる。

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