《MUMEI》

同じ屋根の下にいても、花禀様はいつだって──僕の手の届かない高みにいらっしゃる。





いくら手を伸ばしても‥いくら登っても近付けない。





だから──‥僕は花禀様に気持ちを伝える事は出来ない。





「森下さん、広間の窓拭き終わりました──」

「ご苦労様──。じゃあ休憩してて?」

「ぁ‥モップかけなら僕がやります」

「ぇ‥?」

「よいしょっ──」

「大丈夫?」

「はいっ、ぁ──後でシャンデリアの電球換えておきますね──」

「ありがとう──。でも前みたいに無理しちゃ駄目よ?」

「ご心配なさらないで下さい──もうブッ倒れないって誓いましたから」

「誓った‥?」

「はい。花禀様に──」





だから、大丈夫です。

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